第三章 リベン珠
第10話 イサミ・クロガネと秘密の通路:前編
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あるというものね」
鈴仙も勇美が驚く態度には納得しているのだった。それはかつて自分自身ですら初めてこの通路の事を知った時には驚愕したものだからである。
ましてや勇美は幻想とは無縁の外の世界で育った身。故にこのような状況に対する免疫は鈴仙よりも低いと言えよう。
勇美のその気持ちを汲みつつも、鈴仙はその後処理の事を忘れてはいなかったのだ。
「それじゃあ、一旦入り口は閉じますね」
「あ、はい」
鈴仙に言われて少し驚くも、その対応は正しいだろうと勇美は思い直すのであった。
それもそうだろう。鍵を掛けずに扉を開きっぱなしというのは不用心極まりないものだからである。ましてや、このような常識的な物理法則を無視したかのような産物は断じて他の者に知られてはいけないからだ。
「構いません、お願いします」
故に勇美の答えは決まっていたのだった。鈴仙の配慮に対して素直に同意すると、彼女にその先を促した。
「ありがとう勇美さん、それでは」
言うと鈴仙は後ろを振り返り、再び耳から念を送り始めたのだ。その際にどうしてもピクピクと動く様の愛らしさはどうしようもないだろう。
勇美がその様に密かにほっこりとしている間にも、それは起こっていたのだった。
鈴仙が念を送り続ける事により目の前の『入り口』が、洗浄剤入りの水が排水口に吸い込まれるが如く盛大に縮小し、消滅していったのだ。
そして、遂に目の前には見えない壁で構成された行き止まりだけであった。
「ごめんなさいね勇美さん。戻る道を塞ぐなんて真似をして」
「いえ、これ位が丁度いいと思います。このような場所は滅多な事じゃあ誰にも知られてはいけないでしょうから」
「そう言ってもらえると肩の荷が降りるわ」
物分かりの良い勇美に、鈴仙も心につっかえるものを感じずに済んで心地が良いようである。
と、ここで勇美が「でも」と話を切り出した。
「何かしら勇美さん?」
「ここから先に進めば月に着くのでしょう? だから、こんな空間があったなんて紫さんが知ったら涙目でしょうねって思ったんです」
そう、境界を操るかの八雲紫とて、月に行くのには地上との軸が揃った時を見計らねば辿り着く事が出来なかった程なのだ。
それをこうして、入り口さえ開く事が出来れば誰でも利用出来る空間があるとなれば、紫があれだけ苦労した立場というものがなくなってしまうのである。
「ふふっ、確かにそうですね」
だが、鈴仙はそのように不憫になってしまう紫の事を思うと、思わず笑いが腹の底から沸いてくるのだった。
それは彼女とて、胡散臭く何をしでかすか分からない紫には頭を抱える事が多く、こうして出し抜けている事を考えると思わず愉快になってくるのだ。
「鈴仙さん、笑ったら紫さんに失礼ですよ。でも、あはは」
勇美はそのように
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