第三章 リベン珠
第5話 遂に現れた存在:前編
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…。
「鈴仙さん、この人は……」
「ええ、ご察しの通り『玉兎』よ」
玉兎。つまりはこの者は月からやって来た兎であったという事である。
そして、ワンピースに裸足という出で立ちは、地上で活動するに辺り、地上の兎に変装したという事であろう。
「……それだと、地上の兎って誤解を受けていますね」
「それは私も思うわ」
そうして勇美と鈴仙は哀愁に包まれながら思うのであった。
だが、それは無理のない話かも知れない。他国の文化というのは常に誤解を受けるからである。
例えば、海外の映画で日本出身のキャラクターは決まって侍とか忍者とか力士にされがちなのだから。
故に月にも『地上の兎はワンピースに裸足』という間違った認識が広まってしまったのだろう。
「レイセンさん、もとい今のイシンさんもそうだったって八意先生から聞いた事がありますよ」
「そうだったんだ……」
鈴仙はかつて自分と同じ名前を授けられていた玉兎の事を思うと、色々複雑でやるせない気持ちとなるのだった。
「それで鈴仙さん、この玉兎さんは?」
「ええ、彼女は『清蘭』よ」
「え?」
そこで勇美は疑問に思った。鈴仙は名前に漢字を使うのは、地上の者に自分が月の兎だと悟られないようにする為であったと聞いた事があり、それまでの名前は『レイセン』であったのだ。
その疑問を勇美は鈴仙にぶつけると、こう答えが返ってきた。
「ええ、勇美さんの察しの通りよ。清蘭は地上で活動する上でのコードネームで、この子の本名は『セイラン』よ」
「成る程、コードネームだったんですね」
勇美はその主張に納得しようとするが、どうしても譲れないものがあった。
それは、コードネームを本名から取っているという事である。わざわざ敵に素性がバレるような行為は余りにも理不尽と言わざるを得ないだろう。
これだとどこぞの『せっかくだから』という理由で申し訳程度に赤い宝石がはめられた扉を『赤の扉』と言い張って選ぶ人のようである。
だが、勇美は取り敢えずはその事は保留にしようと思っていた所で、とうとう相手から声が掛かって来た。
「あらあら鈴仙、お久しぶり〜。元気してた〜?」
「ついにこの時が来たのね。そちらこそお久しぶりね、清蘭」
軽口で話し出し始める二羽。だが、鈴仙と長い付き合いの勇美には、彼女の口調が緊張を帯びている事は隠せなかったのだ。
無理もないだろう。相手は玉兎なのだ。鈴仙は彼女達を置いて地上と戦争が始まる前に地上へと逃げてしまったのだから。要は自分は裏切り者と言われても返す言葉はないのだ。
依姫は『時効』と称して鈴仙を月に連れ戻す気はないのだ。だからと言って、心穏やかにかつての仲間と話をする事は難しいだろう。
勇美はこの状況をどうしようかと思案していると、今度は清蘭から彼女に声が
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