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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第57話 エル=ファシル星域会戦 その1
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っていく。最初はゆっくりと、次第にはやく。双方の砲門が開いてからまだ三〇分が経過していないのに、既に五〇隻もの戦闘艦が乗員と共に消滅している。重防御の戦艦も、軽快な駆逐艦も関係ない。まさに生と死を分けるは「神のみぞ知る」神聖な場所。

 俺が半ばぼんやりとその光の舞台を見つめていたが、カツンという縞鋼板を軍靴が叩く音で我に返った。それはファイフェルが無意識のうちに体幹を崩し、右足を慌てて下げたゆえに発した音だったがその瞬間に、俺の脊髄の中を冷水のような冷たい電流が駆け抜けたように感じた。

 今自分が立っているのは戦場にある戦艦の司令艦橋であって、テレビが置いてあるリビングでも、動画サイトのページを開いたPCの前でもない。ヘッドホン越しに聞いていたビームの音もミサイルの爆発音もないが、比較にならないほど眩しい白色光と艦の機関と衝撃波による振動が、この体に直接響いてくる。現実であると骨の髄から理解できる。

 もし並走していた巡航艦を貫いた中性子ビームがこの艦を直撃すればどうなるか。ラップのように艦橋構造物に串刺しされるか、それともホーランドのように青白い光の中で消滅するか、はたまた灼熱の熱風によって丸焼きにされるか、腸をまき散らして大量出血するか、漆黒の真空中へと吸い出されるのか。一度経験したはずの『死』への恐怖が、見えない霧となって俺の体を包み込む。

 これが戦場。前世でも地球上の何処かで繰り広げられていた命と命のやり取り。視線を下に向ければ、啓いた両手が僅かに震えている。膝は震えていないが、果たして自分はまっすぐ立っているのか自信が持てない。視線を横に向ければ蒼白な顔色のファイフェルと、厳しい眼付きのモンシャルマン参謀長。そして司令官席に深く腰掛け、両手を机の上で組んで敢然と戦場を睥睨するアレクサンデル=ビュコック。

「そうだった」

 なぜ俺がこの世界に転生したかはわからない。いくら努力したところで原作通りの結果が自由惑星同盟に待ち受けているかもしれない。だが今はそんなことを考えるのではなく、今何をすべきかを考えるべきだ。原作の知識を持つ、宇宙歴七八四年士官学校首席卒業者にして第四四高速機動集団次席参謀たる自分が、戦艦エル・トレメンドの司令艦橋で果たすべきことはなにか。

 俺は震える両手で自分の両頬を二度叩いた。そしてこの司令艦橋で自分に与えられた席に向かい、端末を開く。次席参謀という『無駄飯喰らい』に課される給与分の職務とは何か。各部隊から上げられる定期報告、損害状況、陣形、戦闘宙域の空間情報、そして順次更新される帝国軍の情報を開き、知識として整理し、読み解くこと。

 端末に向かっていたのはどのくらいだったか。一〇分だろうか、一時間だろうか。現在の状況をおおよそ把握できたと思い、顔を上げてメインスクリーンを見上
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