悲劇の立ち合い
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その首筋には、赤い血だまりの中に、明らかに異質な血管が浮き出ていた。それは人の肉体を食べるごとに、木綿季の体を駆け巡っていく。
「病院の水が感染源……たとえ、その確率が低いものだったとしても……ずっと病院にいる木綿季ちゃんが、感染していないわけがなかったんだ」
「ねえ」
その時、木綿季がべったりとガラスに張り付いた。血だらけの顔で、大きな笑顔を可奈美に向けている。
「僕もお腹が空いたんだけど」
張り付いている手より、ピリピリと重さがかけられていく。可奈美が危険を悟り、大きく飛びのいたと同時に、木綿季が厚ガラスを押し破った。
「……!」
無菌室のガラスを素手で破るなど、そう簡単にできることではない。その力に唖然としながら、病室より出てきた木綿季を見つめていた。
「可奈美。可奈美と立ち合いしたいなあ。可奈美を……食べたいなあ」
「……分かってたよ……」
可奈美は目線を下に向ける。もう、木綿季の姿を見たくなかった。
同時に、彼女の体から蒸気が発せられる。
「ねえ可奈美。立ち合いしよう? ねえ可奈美。食べさせて?」
もう、見ていられない。可奈美は蒸気が発せられている間、目を下に反らした。その間、体がバキバキと壊れていく音が鳴り響いていた。
蒸気が消えたころ、可奈美は恐る恐る顔を上げた。
そこにはもう、木綿季はいなかった。
そこには、黒いアマゾンがいた。
背丈が木綿季と全く同じ。ズタズタに引き裂かれた病院服がどんどん崩れていき、アマゾンとしての姿が露わになっていく。
漆黒の鎧を幾重にも纏い、その腰には、細く虫のような翅が生えている。右手には、黒曜石の輝きを持つ美しいレイピアが握られており、床を撫でるだけでズタズタに引き裂いていた。長く美しい髪とアマゾンの顔も相まって、それは、小さな悪魔の一種、インプを連想させた。ならばこれは、インプアマゾンと呼ぶべきものだろうか。
「どうして……どうして……?」
「可奈美」
その声は、明らかに木綿季のものだった。だが、その口は人を食らうアマゾンからのものだった。
「立ち合い。しよう?」
インプアマゾンは、黒曜石の剣を可奈美へ向ける。
その素早い動きで、一直線に可奈美へ飛んできた。
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