悲劇の立ち合い
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痕が付着している。切れかけているライトが照らし出す階段には、真っ白な階段などどこにもなかった。
「……っ!」
あと数段。そんな距離になったところで、可奈美は足を止めた。
くちゃ。くちゃ。くちゃ。くちゃ。
その音を耳にした途端、可奈美の背筋が凍った。
昨日まで、聞き慣れるなんて思いもよらなかった咀嚼音。
カニバリズムをそのまま音にしたようなそれは、明らかに地下から聞こえていた。
可奈美は千鳥を強く握りながら、一歩ずつ階段を踏みしめていく。
やがて、地下の部屋の入り口に着いてしまった。可奈美は恐る恐る、ドアノブに触れる。
「……暖かい……」
同時に、ぬめぬめとした感覚が、可奈美を襲った。
もう、手を見下ろしたくもない。
「木綿季ちゃん……?」
ドアを開けながら、可奈美はその名を呼んだ。
いた。
感染していない。
分厚いガラスの向こう。以前病院から出られなかったとき、巨大な装置のパーツの一部になっているようになっていたベッドで腰を掛けていた。
「あ! 可奈美!」
木綿季が元気にこちらに手を振っている。肉声がガラスを貫通してくるのは、強化ガラスにヒビが入っているからに他ならない。
「木綿季ちゃん……」
「来ると思ってたよ!」
木綿季は元気にガラスに駆け寄った。
「ねえ、可奈美! 今日も剣術教えて!」
「……」
分かっていた。
「どうしたの? あ、そうそう! 今日もさっき、先生から外出許可もらったんだよ!」
「……」
心のどこかでは、理解していた。
「あ、もう竹刀も手元にあるよ? ほら、可奈美! 早くやろうよ!」
俯いてはいけない。どうしても、木綿季のその部分が目に入ってしまうから。
「あ、もしかしてお腹空いた? ごはんあるよ?」
べちゃ。
ガラスに張り付いたごはんに、可奈美は言葉を失った。
同時に、納得していた。
「一緒に食べよう? あれ? でも、ガラスが邪魔だよね? ほら、あっちのドアから入れるから」
「……木綿季ちゃん」
「何? 早く早く! これ、美味しいよ!」
そういいながら、木綿季はごはんを食する。
バリボリと、人間が食べる音ではないサウンドが響く。
「あ。ごめん可奈美。食べ終わっちゃった」
木綿季が持っていたそれを平らげ、全身に食べ散らかしながら、可奈美に笑顔見せた
「ちょっと待ってて。おかわり持ってくるから」
「やめてよ……」
可奈美は静かに首を振る。だが、木綿季は止めない。
「ほら! 左手!」
右手を食した後に持ってきた左手。まるで煎餅のようにかじりつき、血がはじけた。
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