第54話 友人
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の前に蹴躓くなよ。お前さんは奇妙なところで不器用だからな。俺にできることがあれば遠慮なく言ってくれ。ちゃんとカステルには秘密にしておく」
「ありがとうございます」
「あんな可愛い妹さんを泣かせるのは忍びないからな。まったく従兄に似ずいい子じゃないか。娘を持つならああいう子がいいな」
「そう仰っていただけると、義兄冥利に尽きるというものです」
「お前が育てたわけじゃなかろう。なにを偉そうに」
そう言ってパシンと俺の頭を叩くと、キャゼルヌはイロナやウィッティ・アッテンボローと話しているオルタンスさんたちの方へと去っていった。横で聞いていたヤンは、話の内容から俺が何処かに出征することに感づいたようだったが、形にして口に出すことはなかった。ただ一言。敬礼ではなく、俺に手を差し伸べて言った。
「『永遠ならざる平和』の為に」
俺はヤンの手を無言で握りしめるのだった。
◆
結婚式翌日も普段通り仕事は始まり、二回の徹夜と、何度かの激論の末、二月二九日。何とか参謀長の合格点を貰ったエル=ファシル星系奪還作戦の骨子と戦略評価を爺様に提出した。司令官公室で印刷されたそれを、一枚一枚慎重に読み進める爺様を前に、モンシャルマン参謀長もファイフェルも、勿論俺も直立不動の姿勢。二時間かけて読み終えた爺様は、大きく溜息をついた。
「まぁ、良かろう。少なくともジュニアの記している通り、負けがたい作戦ではある」
「ありがとうございます」
「ただ儂はともかく、この作戦案も戦略評価も慎重に過ぎると宇宙艦隊司令部だけでなく、協力する独立艦隊の指揮官あたりが文句をつけてくるのは間違いあるまい。そのあたりの『配慮』は考えておけよ?」
「承知しました」
「それと貴官が提出した第四四機動集団の訓練計画についてじゃが、統合作戦本部査閲部に一応承認された。返答が遅れたのはどうやら査閲部の方で訓練宙域の確保が遅れたからのようでな」
爺様はそう言うと机の上に置いてある通告書を座ったままファイフェルに手渡し、ファイフェルが俺に手渡した。ピラ一枚の通告書だが、統合作戦本部査閲部長ヴィンセント中将のサインがしっかり入っている。
四年と半年前。俺がお世話になった頃の査閲部の部長はクレブス中将、統計課長はハンシェル准将だった。二人ともいい歳した叩き上げの古強者だったから、もう定年で退任されたのかもしれない。一瞬だけ思い出に意識を飛ばしたが、通知書に書かれている文面を読み進めうちに首を傾げざるを得なかった。
「シュパーラ星域管区エレシュキガル演習宙域?」
俺の思わず出た言葉に合わせるかのように、爺様が獅子の喉鳴りのような咳払いをした。明らかな不満と怒りの前兆だが、もし俺が爺様の立場だったとしてもきっと同じような反応をすることだろう。
かつて
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