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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第53話 揺籠期は終わった
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すが……」
「戦艦アラミノスの艦長を務めます、イェレ=フィンクと申します。こちらは嚮導巡航艦エル・セラト艦長のモディボ=ユタン少佐です」
「これは失礼しました、フィンク中佐、ユタン少佐」
 改めて敬礼した後、俺は敢えて失礼を承知で二人に右手を差し伸べた。顔見知りでも同期でもない。年齢から言えば間違いなく一〇歳は年上であろう二人は俺の行動に戸惑い、顔を見合わせた後からそれぞれ手を握り返してくれた。
「ビュコック少将閣下から伺いました。少佐のご判断で第八七〇九哨戒隊を解散させなかったと。ありがとうございます」
「いえ、感謝されるほどのことでは」
「いいえ、少佐のおかげで我々は『戦って死ぬ』ことが許されたのです」
 そう言うフィンク中佐の顔にはほんの僅かにではあったが明るさがあった。それはユタン少佐にもある。
「戦場で少将閣下に『助言』される際には、是非とも我々をお使いください。どこでも、『いかようにでも』働いてご覧にいれましょう」
「ブライトウェル嬢についても伺いました。ボロディン少佐のご配慮、感謝します」
 それまで口を開かなかったユタン少佐の口ぶりは、まさに窮地にある姪っ子を心配する叔父さんそのものだった。たったそれだけだったが、言いたいことを言ってすっきりしたのか、二人はもう一度俺に敬礼するときれいに回れ右をして会議場から去っていく。俺は彼らの背中から視線を逸らすことができなかった。

 命令上従わざるを得ない状況下で許されざる罪を背負わされた彼らを、世間の人は常に責め立ててきたのだろう。ほぼ間違いなくエル・ファシル駐留艦隊の家族はヤンの奇策によって救われた。第八七〇九哨戒隊の乗組員はきっと生きて家族に会えたに違いない。たとえそれが地獄であると分かっていても、だ。だがだからといって……

「そんな簡単に死なせてたまるものかよ」

 俺は退出者でごった返し、既にどれだかわからなくなった二人の背中に向けて、呟くのだった。





 二月一五日。結成式から一〇日余りで書き上げた第四四高速機動集団の訓練計画を、俺は爺様に提出する。

 たった二四〇〇隻。俺が査閲部にいた時、一個艦隊の訓練査閲を実施したものだが、「チェックする側」と「チェックされる側」の違いをしみじみと感じざるを得なかった。結成したばかりの部隊訓練に、かつて第三艦隊が提出した訓練計画をそのまま焼き直しても意味はないと考え、評点を下げて難易度も相当落とした計画書を提出したのだが、果たして爺様の評価は惨憺たるものだった。

「ジュニア。訓練がこれではまともな戦闘が出来ん。もうちょっと厳しくすべきではないかの」

 パピルスも含めれば産まれてより六〇〇〇年。いまだに死に絶えない紙の訓練計画書を右手で叩いた上で、俺をどんぐりのように丸い目で睨みつけ
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