第三章
[8]前話
「昼、雪が降らぬ時を見て」
「祓いますか」
「そうすることにします」
「そうですか、いや何かと思えば」
西郷は今着ている着物の袖の中で腕を組んで述べた、見ればその着物も袴も質素なものである。古くあちこちほつれてもいる。
「そうしたものでしたか」
「はい、では」
「祓われますか」
「そうします」
神主はこう言い実際に崖で魂を祓い鎮めた、すると以後もう雪女郎は出ることはなかった。
西郷はお祓いが終わってから会津に戻って話した、すると皆こう言った。
「そうだったか」
「霊のことだったか」
「何かと思えば」
「そうだったんだな」
「どうもな、退治は一瞬だったが」
屈んで背中への突き落としをかわしそこから投げた、それで終わったが。
「しかしな」
「それでもだな」
「深いものがあったな」
「全く以て」
「そう思う、妖怪退治をしてみたいと思っていたが」
それでもというのだ。
「深いものがあった」
「そうだな」
「君にとってそうした話になったな」
「実にな」
「ああ、磐城に行く時は笑っていたが」
西郷はその時の自分を思い出しつつ話した。
「しかしな」
「それでもだな」
「今は真剣な顔だな」
「そうなっているな」
「どうもな、このことは東京に帰っても先生に話そう」
西郷は今は飲まずに話した、そうして東京に帰って嘉納治五郎に話すと嘉納も深い顔になった。このことについて。
西郷四郎という柔道黎明期の達人についての逸話である、まことの話であるかどうかわからない。だが文明開化の頃の妖怪話として伝わっているものである、面白いと思いここに書き残させてもらった。誰かが読んでくれれば幸いである。
雪女郎に背を 完
2020・6・11
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ