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女郎蜘蛛
第四章

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「もうな」
「これで、ですか」
「好きにしてくれ」
「そうですか」
「しこたま飲んだしな、酔い潰れたまま死ぬならこれ以上の幸せはないさ」
 こう言ってだ、太助は夢の中で女の前で胡座をかいた。もう好きにしてくれというのだ。実際に彼は達観した顔だった。
 だが女はその彼に言った。
「何かです」
「何か?」
「そこまで達観された態度を見せられますと」 
 それならというのだ。
「もういいです」
「いいってまさか」
「命を取る気がなくなりました」
「いいのか」
「はい、もうです」
 それこそというのだ。
「その達観のまま生きていてくれれば」
「いいか」
「私としては。そんな気持ちになりました」
「そうなんだな」
「はい、ではです」
「それならか」
「私はこれで去ります」
 こう太助に告げた。
「そうさせてもらいます」
「滝に戻るのか」
「身体は今も滝にあります」
「魂が来たのか」
「そうです、では天寿を全うして下さい」
「実際に思い残ることがないんだがな」
「それでも生きていればさらにいいことがあります」
 これ以上生きてもという太助にこう返した。
「ですから」
「天寿までか」
「生きていて下さい」
「あるかな」
「それはおいおいわかります、では」
「ああ、じゃあな」
 太助は自分から離れて背を向けて歩きはじめた女に別れの言葉を告げた、そして朝起きて生きていて周りに死んでいないことを言われた。
 そしてだった、彼は生きていく中で。
 孫が結婚して曾孫の顔を見た、ここで彼は女が言った言葉の意味がわかった。そうして生きていればいいものだと思った。例え思い残すものがなかろうとも。


女郎蜘蛛   完


                  2020・7・12
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