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霊群の杜
囀り石
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!得体の知れない石に落書きとか!


駄目だ今日の俺は。熱で思考能力が下がっていると碌なことを思いつかん。…この問題は熱が下がるまで凍結だ。ひとまず熱さましを飲んで、一時的に熱を下げて考えをまとめよう。そう思って立ち上がった瞬間。
掌の中で、青白い石がもぞりと動いた。
『熱を出しているのは、己自身』
またしても呟きが聞こえた。…さっきはよく分からなかったがこれは、なんという声だ。あらゆる人の声色から年齢や性別、それぞれの特徴を差っ引いた、純然たる『声色』。言葉は聞き取れるのに、何処か楽器の音色でも聞いているような、無機質な印象だ。…石の声とは、そういうものだろうか。
「…俺が、わざと熱を出している?」
一応、問いかけてみた。…危ないかな、とは思ったが、あの用心深い静流が能天気に置いて帰ったということは、俺に危害を加える石ではないのだろう。問いかけること自体が正しいのかどうかは分からないが。
『熱が出れば、外に出ない。地面に触れることはない』
俺の問いに対する答えとは云い難いが、石の声は続いた。
『土地神の呪いと、人面樹の執着が絡まり合い、地面に触れれば贄となる…』
「えっ!?」
『場合もないでもない』
「どっちだよ!?」
なんかはっきりしないが、どうやら今の俺は外に出ると地味〜に危険、と、この石はそう伝えている…ように感じる。
『呪いが解けるのは、桜が…咲い…』
言葉は徐々に細くなり、やがて俺には聞こえない呟きへと変わって消えた。
桜、桜。また桜か。
誰も彼も、桜が咲くまで俺を封じ込める気か。俺はリモコンを引き寄せてテレビをつけた。…そろそろ、午後のニュースの時間だ。天気予報に桜開花前線でもついてないだろうか…と思ったが、不倫報道のニュースが繰り返し、映し出されるだけだ。ネットで調べる気にもなれず、俺は目を閉じて体を横たえた。…熱を出しているのが俺自身の防衛本能なのだとしたら、桜が咲く頃になったらこの熱も下がるのだろう。…ああ、散々な春休みだ。


眠る直前、ふっと『囀り石』という言葉が脳裏をよぎった。


群馬県の何処かにあるという巨岩のことではなかったか。…正直、これが奉の知識なのか、俺の記憶なのかは定かではない。ただ、俺は『囀り石』のことをおぼろげながら知っている。仇討ちのために諸国を旅する男が巨岩の上で寝そべっていると、探す仇について話す声が岩の中から聞こえた。…果たして、仇は岩の話した通りに…。
それからも囀り石は、付近の人々の役に立つようなことを話し続けた。だがある日、岩の話声に驚いた男が刀で岩を斬りつけると、それ以来岩はぴたりと喋らなくなった。
男が斬りつけて云々…というのは、伝説を終わらせるための口実のようなものだろう。岩は恐らく、元より話などしなかったのか、あるいは…岩の声を聴ける人間自
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