囀り石
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綺麗な石というか。俺が子供の頃なら目を輝かせて菓子の缶にに貯めただろうが…。
「………石?」
静流は少し顎を引いて、頬を赤らめて頷いた。
「うん…石」
そう云って俺の手をとり、そっと石を乗せた。…不思議だ、何故だろう。静流の体温が移ったのだろうか。石は仄かに温かい。掌に包み込んでみると、それはしっくりと手に馴染んだ。…どういうことだ、これは、まるで…。
「……なんか、小さい動物みたいだな。産毛の気配すら感じる」
「だよね!?なんかね、ぎゅってしてると落ち着くの!」
嬉しそうにそう云って静流は身を乗り出してきた。膝の辺りにさらりと落ちてきた長い髪から、シャンプーのいい匂いがする。
…熱のせいか、頭がくらりとした。気が付くと俺は、静流の肩に額を預けていた。
「…すまん」
クッキーのような甘い香りを纏った体温が、じわりと額を温めた。怠さと気恥ずかしさで顔を上げられない。静流が密かに息を呑む気配を感じた。…何をやっているんだ俺は。熱があるというのに。…時計の秒針の音が、妙に大きい。
―――本当に、何をしているんだ。
炬燵の上に石を置いて、そのまま静流の眼鏡を外した。…長い睫毛だ。眼鏡越しだと分からなかった。静流は微かに差し込む陽の光を柔らかく照り返す瞳を、そっと閉じた。柔らかい頬に手を添えてみる。…感染る病気だったら…と一瞬躊躇った。
―――感染ってもいいよ、と云われた気がした。肩を引き寄せても抵抗しないのを確認して、桜色の唇に…
「また来たな!!めがね星人!!」
唇が軽く触れた瞬間、お団子頭のモンスターが弾丸のように飛び込んで来た。
「ひぁっ」
何故か炬燵の上の眼鏡をひったくるようにして掛け直してから静流が飛び上がった。…なんだそれは、体の一部か何かなのか。
「こっ小梅!?どうした一人で!!ママはどこに行った!?」
心臓がバクバクいうのを必死に押し殺し、辛うじて声を出した。
「小梅はもう、ひとりででんしゃに乗れるのです!」
「いや乗せちゃダメだろ!?何やってんだ姉貴は!!」
「ママはママ友とおしゃべりちゅう!!ひまだからきた!!」
「ちょっ…ママにここに来る事伝えてないのか!?」
「にんじゃは、しのぶもの!!」
「幼稚園児は忍ばんでいい!!」
その時、キッチン脇の電話がけたたましく鳴り始めた。…絶対姉貴だ。今更、小梅が居ないことに気が付いたのだろう。…熱のせいだろうか、頭がくらくらする。
「あ、私出ます…」
髪で横顔を隠すようにして、静流がふらりと立ち上がった。…悪い、今日は色々と無理だ。厚意に甘える。
「出んでいいっ!めがね星人め!!」
横合いから小梅の飛び蹴りを受けて静流がふっとぶ。静流が崩れ落ちるその脇をすり抜けて小梅が電話に飛び付いた。
「あっ…やめたほうが…」
―――静流、優
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