囀り石
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ろう。なんかもう泣けてくる。しかも静流は脱いだ靴をさりげなく母さんのブーツの影に隠れるように配置し、1階の間取りを慎重に確認しながら忍び足でついてきた。
「ちゃんと確認すれば、意外と死角があるものですね…」
―――この子、小梅襲来を想定して逃走経路を確保してやがる…。
彼女のお見舞いってこんな緊迫感溢れるもんかな…と、熱でまだぼんやりした頭で考えながら、リビングに敷いた布団に潜り込んだ。…ワイドショーは相変わらず、さっき名前を知ったような芸能人の不倫報道で盛り上がっている。不倫のニュースを彼女と観るのは少し微妙な気分なので、そっとテレビの電源を切る。…本当は色々、気を使ってやらなきゃいけないんだろうけど、熱のせいで頭がうまく回らない。申し訳ない…と口に出しながら、俺は目を閉じた。…瞼が熱い。
「あっ…リンゴ、剥こうかな。擦ったほうがいいかな」
「…そのままでいいや」
ぱたぱた…とキッチンに向かう気配を感じながら、俺はほんのりと幸せを感じていた。
―――小学校の頃の俺よ。大きくなった俺は、彼女にリンゴを剥いてもらっているぞ。
『おれ、このまま奉の面倒見ながら爺さんになっていくのかな…』と漠然とした不安を抱えて生きていた思春期入口の俺を、ぎゅっと抱きしめて安心させてやりたい。そんな気分だ。
≪…小梅は、3時にくるね≫
「ん!?」
思わず急に上半身を起こした。
「わぁっ……!」
静流が八つ切りのリンゴを皿に盛ってワタワタしていた。ふと炬燵の上を見ると、スーパーの特大ビニール袋からフルーツやらスポーツドリンクやらが盛大にはみ出して占拠している。スポーツドリンクはビタミンC入ってるやつだし、柑橘類がやたら入っているし、どうも俺の病気を風邪と決めつけてのチョイスである。
「あ、ごめん。…ビックリさせた?」
「急に起き上がるから…リンゴ、炬燵に置いていい?」
「うん…あのさ」
何か聞こえなかったか?と云いかけて、つい口を噤んだ。そんなことを聞いたらまた怯えさせてしまいそうだ。二重の意味で。俺はさりげなく声がしたと思う方向に視線を彷徨わせた。…変わったものはない。あるのは、静流の鞄くらいだ。
「あ、そうそう」
俺が鞄をガン視していた事で何かを思い出したのだろうか、静流は鞄を膝にたぐりよせた。…まだ何か出てくるのか。炬燵の上は既に、いつの間にやら広げられたリンゴやら、蜜柑やら、スポーツドリンクやら、ビタミンゼリーやらで埋め尽くされているというのに、まだ何か見舞いの品があるのか。もう炬燵に乗せきれないんだが。どうやって持って来たんだこれ。
「ここに来る途中、これ拾ったの」
綺麗な懐紙に大事そうに包まれたそれは、大理石…とは少し違った光沢の、青白い石だった。例えるなら…金持ちの家の庭に撒いてある庭石の中では
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