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戦国異伝供書
第百十九話 悪人達の絵その一

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               第百十九話  悪人達の絵
 義久は自分の間に多くの者達の絵を飾った、それは全部彼が描かせたものであった。その絵を観て弟達は言った。
「これはまた」
「悪人ばかりですな」
「それも名の知られた」
「うむ、あえてな」
 義久は微笑んで答えた。
「飾ったのじゃ」
「あえてとは」
「この者達を見よ」 
 義久はさらに笑って歳久に言った。
「どの者も大悪人であろう」
「はい、本朝のもおれば異朝の者もいますが」
「どちらにしても大悪人であるな」
「どの者もまさに」
「そうであるな」
「しかしそれをあえてとは」
 義弘も首を傾げさせて言った。
「またどうして」
「それは善行から話す」
「そちらからですか」
「善行は己がしようと思えば出来るな」
「はい」
 それはとだ、義弘も答えた。
「そのことについては」
「そうであるな」
「しようと思わねば出来ませぬ」
「善行はそうしたもの、だが悪行は違う」
「そちらはですか」
「知らず知らずにしてしまうもの」
 こう言うのだった。
「木曾朝臣殿もそうであったな」
「そういえばそうですな」
「平太政大臣殿もな」  
 平清盛もというのだ。
「そうであったな」
「どの御仁もですな」
「知らず知らずにしてします、それが悪行というものじゃ」
「そういえば」
 家久は項羽の肖像画を見て言った。
「西楚の覇王も」
「二十万の敵を生き埋めにしたり阿房宮を焼いたりしたな」
「確かに」
「随分と苛烈な御仁で」
「やはり知らず知らずにしてしまった」
 項羽にしてもというのだ。
「誰もがそうじゃ、悪行を知らず知らずのうちにしてしまった」
「それがその大悪人達ですか」
「わしは常にこの者達の顔を見てな」
 そしてというのだ。
「そのうえでこの者達と同じことはすまいとな」
「思われていますか」
「左様ですか」
「それで飾られていますが」
「常に心掛ける様にしておるのじゃ」
 彼等と同じことはすまい、とというのだ。
「その顔を見てな、そして道を誤らない」
「そうお考えですか」
「兄上としては」
「そうなのですな」
「今は戦国の世、何かあるとな」
 それこそというのだ。
「すぐに悪行に走るな」
「はい、確かに」
「そうした話も多いです」
「何かと」
「戦国の世ではないが六代様を見るのじゃ」
 足利義教、彼をというのだ。
「特にな」
「大悪の公方様ですな」
「あの方は酷いものでしたな」
「どうにも惨い方でした」
「あの様なことをしてはならぬ」
 断じてというのだ。
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