千翼
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の見えない友奈は、「えへへ……」と頭を掻く。
「でも、これで逃げられたよね? よかった……」
友奈が大きく息を吐いた。
「大丈夫? ケガとか、してない?」
「し、してない……っ!?」
千翼は思わず、頭に乗せられた友奈の手を振り払う。
「な、なに!?」
「ごめんね。倒れそうだったからつい……君、名前は?」
「……千翼……」
「千翼君? ……うん、可愛い名前だね!」
「や、止めてよ!」
千翼は拒絶する。ラビットハウスの連中といい、この名前にはいいことがない。
「なんで俺の親はこんな名前……」
「ええ? 可愛いじゃん!」
「だから!」
千翼は地団駄を踏む。そのまま、友奈へ礼も言わずに歩き去ろうとしたが。
「……お腹……空いた……」
自然の摂理の音が、内部より響き、道路に力なく倒れた。
「……何だよこれ」
鼻を充満する添加物の臭いに、千翼は顔をしかめた。だが、友奈はにっこりとその食べ物を押し出してきた。
白い麦類と、茶色の液体。それを蓋する、茶色の四角形。
警戒を強める千翼とは裏腹に、友奈は割りばしを割った。
「うどんだよ!」
「うどん……?」
「そう! ほら、食べて食べて! 私の驕り!」
「……」
怪訝な表情の千翼に構わず、友奈はうどんを啜り始めた。
「うん! おいしい! ほら、千翼君も食べて?」
「……なんで……」
「あれ? もしかして、うどん嫌いだった?」
「……食べることが……あんまり好きじゃない」
なんか、汚く見えるから。そういう思いを言葉にはしなかった。
「そうなんだ。でも、お腹空いたんでしょ?」
「いつも病院で……」
「困ったときはうどん! 健康にもいいんだから、きっと千翼君も気に入るって!」
ささ、と友奈は千翼に促した。千翼の鼻腔をうどんの臭いがくすぐる。だが、千翼の食欲をそそることは全くなかった。
「……」
むしろ千翼の視線は、盆を持つ彼女の手に当てられていた。そして、思わずゴクリと生唾を飲む。
「ほら。美味しそうでしょ?」
友奈は何も気づいていないようだった。千翼は渋々、箸を裂く。パキッという音を耳にし、千翼はぬるりとした物体を挟み込む。
「……」
「ほらほら。こんな風に」
友奈がうどんを食べている。それをマネするように、千翼もうどんを食し始めた。
口の中の固形物に対し、味がほとんどなかった。
「ごちそうさま!」
うどん汁もほとんど飲み切った友奈に対し、千翼は汁に全く手を付けていなかった。
「どうだった? 千翼君?」
「……別に……」
「別に?」
こちらを覗き込む友奈。外見年齢年上の
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