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戦国異伝供書
第百十五話 孤立無援その十二

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「それで今織田殿が最も恐れる御仁のお一人となっている」
「お一人ですか」
「もうお一人は上杉殿じゃ」
 謙信もというのだ。
「あの御仁もじゃ。若し武田殿が織田殿に勝てばな」
「武田殿が天下人にですか」
「ならんとされて」
 それでというのだ。
「そのうえでな」
「管領になられるが」
「管領で、ですか」
「止まる」
「やはり元々守護なので」
「そして格がある」
 家のそれがというのだ。
「それを気にせずにはおられん」
「到底ですか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「このことはな、武家ならばな」
「公方様の下にですか」
「いずにいられぬ、幕府を倒すなぞ」
 それはというと。
「出来はせぬ」
「到底」
「左様、わしは守護であり探題である、そしてな」
「管領になられる」
「そこまでじゃ、武門の棟梁はあくまで公方様じゃ」
「足利様である」
「それは変わらぬ、ただな」
 ここで政宗はこうも話した。
「両家共今は力がないが」
「その両家とは」
「三河守護の吉良家、駿河と遠江の守護の今川家じゃ」
 この二家だというのだ。
「それはな」
「確かどちらのお家も」
「公方様の縁戚でな」
「源氏の方ですね」
「そしていざという時は公方様になれる」
「そう定められていますね」
「だからこの両家は違う」
 吉良家と今川家はというのだ。
「他の家とな」
「公方様になれるのですね」
「武門の棟梁にな」
「当家とは違うのですね」
「左様、武田殿も源氏の名門ではある」
 信玄の家もというのだ。
「しかし公方様の血筋ではない」
「同じ源氏であっても」
「かといって鎌倉様とも違う」
 その血筋はというのだ。
「だからな」
「公方様になれないのですね」
「そうじゃ」 
 まさにというのだ。
「どうしてもな」
「そして当家は藤家なので」
「公方様になることなぞな」 
「なれないのですね」
「どうあってもな、だからな」
「殿は管領になられるのですね」
「そのつもりじゃ、しかし織田殿は」
 今天下を握っている彼はというのだ。
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