暁 〜小説投稿サイト〜
だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
時代はIoTだが、IoTはよく見ると泣いている顔に見える話
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た隼人は、左腕を総一郎の首に回し。
 いつのまにか用意していた自撮り棒を前に伸ばした。

「ハイ笑ってー。ボール握って前に出して」

 パシャ。

 二人の笑顔がスマホに収まると、隼人は「ありがと!」と総一郎の肩を叩いて元の位置に戻っていった。
 そしてまた手元の問題を解き始めた。満足そうにニヤニヤしながら。

(これは……また彼に助けられたのだろうか?)

 総一郎は渡されたままの野球ボールを、しばらく両手で包んで転がしていた。



 * * *



(なんか今日は部屋がちょっと暑かったな?)

 総一郎宅から退出して道を歩きながら、隼人はそう振り返っていた。
 途中「総一郎、暑くないのか?」と言おうとしたが、ちょうどそのタイミングで問題の解答ミスを指摘され、そのまま言いそびれてしまった。

 隼人は汗っかきなほうではあるが、野球部の練習のおかげで暑さにも汗をかくのも慣れている。
 彼の部屋に汗を垂らすのはまずいので念のため一枚脱いだものの、我慢できないほどではなかった。
 逆に総一郎のほうは大丈夫だったのだろうか? と少し心配だった。

(ま、暑けりゃエアコンの温度下げるだろうし。そうしなかったってことは平気ってことか)

 彼はいつも涼しい顔をしている。自分と同じくあまり暑さを気にしないタイプなのかもしれない――そう思って、隼人はその問題を考えることを終わりにした。

 それよりも、である。

 さっき、貴重なものを入手した。
 それは汗で失った水分を補って余りあるものだった。
 思い出すと自然と顔が緩む。

 勉強している姿をいきなりパシャっと撮られたのには驚いた。
 が、それは写真を撮り返すまたとないチャンスのようにも思えた。
 チャンスは逃さず、たたみかけなければならない。野球と同じだ。

 隼人はスマホを上に掲げ、二枚の写真を表示させた。

「よっしゃー! 写真ゲット――っ!!」

 夜道に響く大声。
 すれ違う帰宅途中のサラリーマンが訝しげな視線を送ってくる中、隼人は駅へと向かった。





(『時代はIoTだが、IoTはよく見ると泣いている顔に見える話』 終)

 ※注 エアコンは初期不良でした。
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