入れない病院
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さやかが恨めしそうに可奈美を睨んだ。可奈美は「平気なわけないよ」と答え、
「まあ、色んなところでこれまで戦ってきたからね。それに、木綿季ちゃんが心配だし。お、このドアだね」
ガチャリと、ドアが開く。施錠されていない扉の先には、大きく破壊された病院のロビーが広がっていた。
「怪物が暴れたって聞いたけど、こういうことか……」
踏み荒らされた待ち合わせ椅子。薙ぎ倒された観葉植物。清潔感あふれる病院には似合わない、黒い傷跡。大きな床には巨大な生物が転がったような跡が残っている。
「えっと……さやかちゃん、大丈夫?」
可奈美は刀使として、戦闘経験は豊富である。破壊の後なども見慣れたものだが、この一般中学生はそうもいかない。数秒間気を失ったように茫然としていた。
「あ、うん……大丈夫大丈夫!」
さやかはそのまま、受付に目を移す。避難した後の病院には誰もおらず、受付もガランとしていた。
「受付しなくて済むなんて、手間省けるね! 速く恭介のところに行ける!」
「あっ! 待って!」
さやかは早足で階段を駆け上っていく。それを追いかける可奈美は、途中のエレベーターの破損によって停止しているのを見て一瞬立ち止まる。
「恭介!」
その声に、可奈美は足を止め、病室の前で立ち止まる。
すると、中より声色の変わったさやかの声が聞こえてきた。
「……誰?」
その単語に、可奈美は思わず顔をのぞかせる。
窓際にあるベッド。白いベッドで心配そうな顔をしている少年が、さやかが言っていた恭介という少年だろう。そして、さやか。彼女は、警戒心を露わに、恭介のベッドの前に立つ存在を見つめていた。
「だーれっかな?」
一言で言い表せば、陽気な黒人男性。緑のタンクトップのみと、十一月にしては寒そうな衣装だった。隆々な筋肉が特徴の彼は、にやりと笑みながらさやかを見返している。
「君、可愛いね。彼女?」
「そ、そんなんじゃないよ」
恭介が照れ臭そうに言った。さやかは少し嬉しそうな顔をしながら、黒人男性に詰め寄る。
「そ、そんなのいいでしょ? アンタ何者よ!?」
「俺? 俺は……」
その時。可奈美は見た。
黒人男性の逞しい顔つきに、小さな獣が浮かび上がったのを。
彼はそのまま、さやかへ手刀を振るう。
「絶望を持ってきた、ファントムだよ……」
黒人男性の手刀___黄色の刃を、千鳥が防いだ。
可奈美が写シを使うのと、黒人男性が猫の怪物になるタイミングが全く同じ。
「さやかちゃん! その子を連れて早く逃げて!」
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