入れない病院
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さやかは思い出したように「ああ!」と言った。
「ごめん。ラビットハウスの店員、チノとココアしか覚えてなかった」
「あはは。流石に二人には負けるよ」
可奈美は笑って流し、病院を見上げる。
「ねえ。さやかちゃん、さっき入ろうとしてたよね? 病院に」
「えっ!? ちがっ……」
可奈美の指摘に、さやかはあたふたと両手を振る。言い訳をしようとしたのだろうが、やがて諦め、
「うん。そうだよ。あたしの……友達が入院しているんだ」
「そっか……病院がこんなことになったら心配だよね」
「うん……」
さやかは俯いた。
「だから、どうしても病院に入って、恭介の無事を確認したい! 電話とかじゃなく、しっかりとこの目で!」
「うんうん、わかった」
可奈美はさやかを宥めながら頷いた。
「でもどうしよう……入口は全部警察やマスコミが塞いじゃってるから……」
「うーん……」
さやかが頭を捻る。やがて、彼女の頭上に電灯が閃いた。
「あ、そうだ!」
「何?」
「この前映画で見たんだけどさ、こういう施設って、地下からの侵入には弱いんじゃないの?」
「地下?」
「そそ!」
御刀の不正使用。
その罪を自覚しながら、可奈美は下水道門のカギを切り裂いた。
「それじゃ、行こっか」
戸を開けた可奈美の言葉に、さやかは唖然としている。
「いや、確かに言ったのはあたしだけど、まさか本当にやる?」
「冗談のつもりだったの?」
「いやいやいやいや! ないない! あたしたち女の子だよ!? どこの世界に澄ました顔で下水道に入る人がいるの? わざわざこんな川まで来て!」
「私だって女の子だよ? 嫌だけど、木綿季ちゃんが心配だし。大丈夫、刀使だから、迅位であっという間に行けるから」
「で、でも……」
「じゃあ、ここで待ってる?」
「え?」
「病院までそんなに遠くないから、一人で行ってくるけど」
千鳥を握り、その身に白い光を纏わせる。このまま高速移動で一気に病院まで。というところで、さやかに右手を掴まれた。
「分かった! 行く! 行くから! あたしも連れてって!」
鼻が曲がる。
病院の給水室に入った可奈美は、鼻をこすり、汚れのない空気を吸い込んだ。薬品の臭いの混じった空気だが、下水よりは幾分かいい。
だが、可奈美が背負っているさやかは、真っ青な顔で目を回していた。
「うっぷ……最悪……臭い……気持ち悪い……」
さやかは口を抑え、吐き気に苛まれている。給水室を越え、病院の一階に着いたときも、さやかは未だに立てないでいた。
「ほら、大丈夫?」
「大丈夫なわけないじゃん……なんでアンタは平気なの?」
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