第四章
[8]前話
「実はな」
「そうだったんですか」
「そこは驚くところだろ」
「これまでの話で驚いてましたから」
岩魚の話でというのだ。
「ですから」
「驚かないか」
「はい、岩魚がですね」
「ああ、それでこの辺りでは今も岩魚を食うが」
「まさか」
「人になる岩魚はおらんからな」
姉小路は笑ってそれはないと返した。
「それは安心しろ」
「そうですか」
「普通の岩魚だけだ、あんた岩魚は食ったことあるか」
「いえ、実は」
羽柴は自分を案内してくれる姉小路に答えた。
「川魚自体が」
「ああ、名古屋の方だったなあんた」
「そっちにいますと」
名古屋にというのだ。
「やっぱりです」
「魚は海だな」
「川魚はあまり市場にもないですね」
勿論スーパーや百貨店にもだ。
「海老はふんだんに」
「名古屋だからな」
「はい、ですから」
「そうか、しかしな」
「それでもですね」
「こっちは今も岩魚を食うからな」
それでというのだ。
「キャンプ地であんたも食え、美味いぞ」
「それじゃあ」
羽柴は姉小路の言葉に頷いた、そうしてだった。
実際にキャンプ地に着いてそこでじっくりと焼いた岩魚を食べてみた、それは実に美味くて笑顔になった。
そしてだ、一緒に岩魚を食べる姉小路にこう言った。
「美味いですね」
「そうだろ、それであの川がな」
姉小路は自分達の後ろに流れる川を見て話した、見れば周りには羽柴以外のキャンプの客達がいてテントが幾つもある。
「その毒を流した川だ」
「そのお坊さんになった岩魚がいた川ですね」
「この岩魚もあの川で獲ったんだ」
「そうなんですね」
「ああ、しかし今は毒は流してないからな」
「だからですね」
「そのことは安心してくれよ」
こう言ってだ、そして。
姉小路は羽柴に岩魚をもう一匹差し出した、それで彼に笑顔で言った。
「どんどん食ってくれよ」
「そうさせてもらいます」
羽柴も笑顔で応えた、そうしてその岩魚を受け取り食った。その岩魚も実に美味かった。
岩魚法師 完
2020・6・15
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