第三章
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「これはな」
「じゃあね」
「ああ、それじゃあな」
勇吉は雨降り小僧が傘を持つと笑顔で言った。
「縁があったら会おうぜ」
「まただね」
「そうしような」
こう言ってだった、勇吉は田助と共に雨降り小僧と手を振って別れた、そうしてあらためて雨宿りの場所を探したが。
雨は急に止んだ、二人が雨降り小僧と別れるとすぐにだった。それでだった。
勇吉はあっという間に消えていく雲とそこから出て来た青空を見上げて田助に対して言った。
「じゃあ今からな」
「吉原か?」
「そっちに行くか」
こう言うのだった。
「そうするか」
「雨も止んだしか」
「どうだい?」
「行くにしちゃあな」
それがいいがとだ、田助は勇吉に返した。
「濡れ過ぎたな」
「雨でな」
「傘の土砂降りも受けたしな」
雨降り小僧の傘でというのだ。
「吉原行くにしちゃ濡れ過ぎだろ」
「いいだろ、それも」
勇吉は田助に笑って返した。
「濡れていてもな」
「びしょ濡れでもかよ」
見れば実際に二人はそこまで濡れている、身体も服もまるで川に飛び込んだ後の様になっている程だ。
「いいのかよ」
「いいだろ、水も滴るっていうだろ」
「それでか」
「だからこのまま吉原に行くのもな」
「一興か」
「どっちにしろ吉原じゃ服脱ぐだろ」
「褌までな」
田助も笑って返した。
「そうするな」
「だったら同じだろ」
「だからか」
「着物は乾かしてもらってな」
店の方にというのだ。
「それでだよ」
「俺達はか」
「身体は拭いてな」
そうしてというのだ。
「あらためてだよ」
「店でか」
「遊べばいいさ、それでいいだろ」
「それもそうだな、じゃあ今からな」
「ああ、行くぜ」
吉原、そこにというのだ。
「そうしような」
「そうするか、しかしな」
田助も空を見上げている、そしてその青空を見つつ言うのだった。
「あれだけ降っていたのにな」
「もうだな」
「止んで青空なんてな」
「雨ってのは気まぐれなもんだな」
「全くだな、天気のことはわからねえな」
「女心とな」
「ははは、言えてるな」
二人でこんなことを話しながらだった。
吉原に向かった、そしてそこで心ゆくまで粋に楽しんだ。
雨降り小僧 完
2020・7・19
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