第一章
[2]次話
雨降り小僧
不意に雨が降ってきた、それも大雨だ。
それで勇吉はたまりかねて江戸の町の中を歩いていた。
「ったく、急に降ってきたな」
「夕立だな、これは」
一緒にいる田助は勇吉にこう返した、二人共髷は傾きあまり趣味がいいとは言えない柄の着物を着ている。勇吉の眉は太く目は鋭い。田助の目は垂れていて唇は厚い。二人共突然の土砂降りの中で駆けている。
「だからな」
「急に激しく降るってか」
「ああ、だからな」
「驚くこともねえか」
「そうだろ、しかしな」
雨に散々濡れてだ、田助は言った。
「これは参ったな」
「おう、折角仕事が終わって気楽に散歩してたのにな」
「それがだからな」
「参ったぜ」
勇吉は嫌そうに言った。
「全くよ」
「何処か雨宿りに入るか?」
「そうするか、しかしな」
「しかし?」
「これから吉原行くからな」
勇吉は田助にこれから行く場所のことを話した。
「だからな」
「銭はか」
「無駄に使いたくねえだろ」
「店に入るとそれだけで使うからな」
「菓子や蕎麦食ってな」
「それでか」
「ああ、吉原行くんだぞ」
そこで遊ぶからだというのだ。
「だからな」
「それで今はか」
「下手に銭は使わないでな」
そうしておいてというのだ。
「吉原でだよ」
「思いきり使うか」
「いい女を買ってな」
そしてというのだ。
「楽しまねえとな」
「だからか」
「店に入ってな」
そうしてというのだ。
「今銭使うのはな」
「止めておくか」
「そうしような」
こう言うのだった。・
「やっぱりな」
「そうした方がいいか」
「ああ、けれど雨は嫌だな」
濡れることはとだ、勇吉は言った。二人共とにかく今は雨を避けようと必死に走っていた。そうして言うのだった。
「何とかしてえな」
「ああ、物陰でもあればな」
「そこに入るんだがな」
「見たところねえな」
そも物陰もだ。
「ったく、困ったな」
「見ない時は本当に見ないな」
物陰もとだ、こうしたことを話してだった。
「ついてねえ時はな」
「とことんだな」
「ついてねえな」
こうも言うのだった。
「本当に」
「傘でも落ちてねえか」
勇吉はこんなことも言った。
「本当に」
「傘買ったらその分銭使うだろ」
田助はすぐにこう返した。
「それじゃあ駄目だろ」
「おっと、そうだったな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「ここは何処かな」
「雨宿り出来る物陰をか」
「見付けてな」
そうしてというのだ。
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