忠臣の軌跡
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病人のように青白い顔の男……自分自身の姿だった。
途端に情けなくなった。やり場のない悔しさと怒り、哀しみが波となって襲いかかる。
その次にやってきたのは後悔。今となってはどうすることもできない後悔だった。
運命が少し違えば自分もこの写真の男のように祖国に忠義を尽くし続けることができたかもしれない。
あの時、革命さえ起きなければ……
あの時、ロシア帝国が滅びなければ……
あの時、戦争に勝っていれば………、
あの時、あの時、あの時、あの時、あの時………………。
鬱憤と孤独と絶望。そして怨念。
誰もが、何もが、自分を見ようとしない。
それどころか、自分より愚かで劣っているにも関わらず、自分を侮辱し、拒絶し、見下し、剥奪し、搾取し、踏みつけようとする。
しかし、どんなに憤ろうが、嘆こうが、叫ぼうが変わらない現実。
その時だった。
「すみません、……貴方、ブラック様ですよね?」
「ん?」
ふと、後ろから声がして振り向く。
声をかけたのは白人女性だった。スラリとした金髪が特徴的な、中々の美人だ。
「ですよね、やっぱりブラック様ですよね!元将軍の!」
「だったら何だと言うんだ。見ての通り、吾輩は堕ちるところまで墜ちている…。もう、かつての吾輩じゃないんだ。分かったら帰れ」
こんな女は無視するに限る。
関わるとろくなことにならないのは容易に想像できる。
踵を返して歩を進めようとした。
すると―
「戻りたくないですか?あの栄光の日々に」
ピタリ
思わず立ち止まった。
条件反射的と言ってもいいその反応に吾輩自身、驚いていた。戻れないと分かっていても、心のどこかではあの栄光を取り戻したいと思っていたようだ。
「……戻れるならな。だがそんなことができたら苦労はせんよ」
「それができるんですよ。貴方は首領様に選ばれたのですから…」
「首領?誰だそれは?」、振り返ってそう聞き返す前に女はズイッとブラックに擦り寄り、一冊の本を取り出した。いや、本というよりはパンフレットが数枚積み重なっただけにも見える。確かに見た目だけは本なのだがそれくらい薄かったのだ。
ブラックはそれを受け取ると、表紙のタイトルを読んだ。
「『ゲルダム教の教え』?なんだこれは?新興宗教か?」
「新興ではありません。ここ、コンゴに古くから伝わる由緒正しい密教結社です」
興ざめだ。久しぶりに話せるかもしれない人物に出会えたと思ったが結局、ただの宗教勧誘だったのか…。
「宗教勧誘ならごめんだ…。もう神を信じる気になれないのでね」
もし神が本当にいるのならこんな惨めな自分
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