忠臣の軌跡
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々に高まっていた。そこでなら自分を受け入れてくれる場所があるはずだ。運が良ければ元将軍の経験を活かして活躍できると思ったのだ。
だが現実は非常だった。
金も地位も無くしたただの亡国の男の居場所などなかったのだ。軍人としての経験を活かして傭兵になることも考えたが、傭兵になるにしては肉体的・年齢的な限界が近づいていた。やっとのことで就けたのは日雇いの肉体労働、それも他の低所得者達と同じ雑用係だ。
汗だくになり、どんなに真面目に働いても安い給料でそのまま酷使された。
また、亡国の民。それもロシア人ということもあってか現地での風当たりは厳しかった。現地民からの侮辱と嘲笑、無視。差別は当たり前だった。
おまけに給料が極端に安いせいで稀に食事にもありつけない日もあった。そんな時は腹を満たすために道端の泥や草でも胃にねじ込み、喉の渇きを潤すためなら泥水や雨水でも飲んだ。
このような生活を続けていくうちに、魂まで刷り込まれていた元将軍としてのプライドは完全に破壊された。こんな悲惨な現実から目を背けるかのように過去を懐かしむ日ばかりが続いていた。
自分は名家の生まれで優秀な将軍だった、
何度も祖国の危機を救ってきた英雄であり、自分を知らない者など同胞にはいなかった………と。
だがどんなに強く過去を懐かしんでも、ふとした時に現実に引き戻された。
『優秀』だったはずの自分は祖国から遠く離れたコンゴで他の無能な屑共と最底辺の生活を送っている。
そんな日々を送って23年もの月日が経過した。
1942年―。
数年前、ドイツ帝国……いや、ナチスドイツがポーランドに侵攻したことに端を発する、いわゆる第二次世界大戦はナチスドイツら枢軸国の破竹の勢いがイギリス・ソ連の抵抗によってまさに途絶えようとしていた。また東洋では大日本帝國がアメリカの真珠湾を攻撃したことで大東亜戦争が幕を開けていた。
しかし、コンゴという安全地帯にいる吾輩に激動の世界の流れは関係なかった。来る日も来る日も日雇い労働をこなし、安宿と場末の酒場を往復する虚しい生活が続いていた。
その日も吾輩はトボトボと通りを歩いて、安宿へ向かっていた。時刻が夜半過ぎと言うこともあってか人通りは全くない。あるのはガス灯による薄明かりと歩く度に伸びる自身の影だけ。
いい加減、疲れた。
ふと、通りの脇にあった写真屋のショーウィンドウの前で立ち止まる。そこには屈強そうな軍人の写真が並んでおり、思わず見入ってしまった。写真の中の軍人は将校のようで右胸には豪華な勲章を何個もつけていた。
ショーウィンドウをもっとよく眺めようと顔を近づける。するとそこに映ったのはボロ切れのような服を着た、無精髭を生やし、やせ細った、
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