忠臣の軌跡
[18/20]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
しい統治をしても民衆は目先の利益に囚われる。
それに…民衆がよく有り難がる言葉に平和や平等、正義などと言う言葉がある。そんなものはまやかしだ。言葉遊びの延長線上に過ぎない』
ただただ首領の言うことに相槌を打っていた。気づけば自分の高揚感がぐんぐんギアを上げていった。首領の言う通りだったからだ。まさに自分の不満を代弁してくれているように感じた。熱い自信で胸が高鳴る。
『むしろ全くの逆なのだ。大切なのは公平や平穏ではない、競争……そう、競争だ。これこそが発展・進化、そして幸福を促すのだ。あらゆる戦争がテクノロジーの進化や変革を促したように、争いがあるゆえに人は神へと近づき、そこに進歩が生まれるのだ』
全く持ってそのとおりだ。大切なのは平等ではない、競争であり、闘争であり、戦争だ。
改めて考えてみると、前回の大戦もそうだ。列強諸国間の大戦ということもあって様々な新技術が発明された。戦車や毒ガス、機関銃、航空機などの兵器面に留まらず、総力戦という新たな概念も生み出している。
吾輩はふと考えた。
あの当時……世界が激動の時代を迎える中、吾輩はその時何をしていた?そんな単純なことに気づかず、ただ漠然と前線で指揮を取るのみ。多忙にかまけて世界の真理を見つめることができなかったのだ。
そんなだから吾輩は……いや、ロシア帝国は滅びたのだ。
いくら美化しようとこの世は弱肉強食。進化しない者は生き残れない。そんな中で古い装備や制度にしがみついたロシア帝国が滅んだのは自然の摂理だったのかもしれない。
『この世界には変革が!進化が!再構築が必要なのだ!貴様を虫ケラのように扱うこの世界を打倒し、共に新世界を築こうではないか!』
興奮が最高潮に達した時、首領が一言告げた。
『ブラックよ、これを見よ』
そう言うと後方に並んでいた女が吾輩の前にやって来て、ある物をそっと差し出した。
それはオープンヘルムだった。
額には鷲に絡みついた蛇がエンブレムが刻印されていた。
ヘルメットの全体的な形は吾輩が帝政ロシア将軍時代に使っていたものに瓜二つだった……いや、もはや置いてきた物そのものかもしれない。
だとすれば、おかしい。吾輩が使っていたヘルメットは二月革命が起きた時にロシア本国に置いてきたはずだ。
『これはかつて貴様が使っていたヘルメットを我々が回収したものだ。少し改良させてもらったが、貴様に返すとしよう。受け取るがいい』
その発言に組織の影響力の巨大さを垣間見たような気がした。
吾輩はオープンヘルムを被る。
するとどうだろう。
腹の底で眠っていた熱い何かがせり上がってくるような感覚を覚えた。
それが何なのかは直感的に分かった。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ