アインクラッド 前編
Prologue
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楽しんでもらえると思っている。
君の参加を心待ちにしているよ。
茅場 晶彦
「……私の世界、ねぇ……」
本文を読み終わり、雅貴の疑いの念はさらに強まった。そして、茅場の言う“私の世界”とは何か、彼と会ったときのことから推測しながら何気なく覗いたインターネットニュースのトピックス欄に、目が釘付けになった。そのニュースは、衆議院の解散をめぐる与野党の攻防や、ついに共同提訴に持ち込んだ隣国との領土問題の、ICJ(国際司法裁判所)の判決予想などではなく、たった一本のオンラインゲームが明日の13時ちょうどに正式サービスを開始する、という内容のものだった。そして、その瞬間、雅貴の脳裏に確信が浮かび、それと同時にインターホンの機械質な音が部屋に響いた。雅貴がゆっくりと扉を開けると、予想通り、宅配便が人の頭サイズのダンボールを届けに来たところだった。
雅貴はサインをしてダンボールを受け取ると、すぐに部屋に戻り、箱を開けた。するとそこにあったのは、またしても雅貴の予想通り、流線型の形をしたヘッドギアと、ゲームソフトが1つづつ。雅貴はゲームソフトを手に取り、裏面のスクリーンショットに目を向けた。
「《アインクラッド》ねぇ……。茅場のことだから、由来は“An INCarnating RADius(具現化する異世界)”かな?」
かなりの当て推量だったが、なかなか正鵠を射ているのではないかと思い、雅貴は吹き出した。そして、自分が今、柄にも無く感情を昂ぶらせていることに気付く。
雅貴はネットゲーム、特にMMORPGは好きではない。ネットゲームの創り出す仮想世界が現実世界以上に醜いからだ。
アイテムや装備品をめぐったトラブル、プレイヤーIDにパスワードを調べてのキャラクターの乗っ取り等が絶えず、さらにはチャット等を使用しての誹謗・中傷やその他のネット犯罪が横行しているくせに、運営はその汚い面を綺麗でファンタジーな仮面で覆い隠す。しかも、それは全て自分たちの金儲けのためだ。そんな醜悪な世界に1秒たりとも入り込みたくはないという雅貴の思いはしかし、茅場晶彦という天才がどんな世界を創造したのか? という好奇心によって強く揺り動かされた。
「……切羽詰った仕事もないし、茅場の世界とやらは、暇つぶし程度にはなるのかな?」
数分の迷いの後、口元に微笑を浮かべながら呟いた雅貴は、机の上に二つを並べ、すっかりと冷えてしまったコーヒーを飲み干した。そして、自分の心中に渦巻く珍しい感情を味わいながら、リビングに置かれているベッドへと向かったのだった。
そこまで雅貴の心を揺さぶり、そして彼の人生にとって2回目となる大きな波乱を呼び起こす、たった1本
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