アインクラッド 前編
Prologue
[3/7]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、という、心の奥底に刻み付けられていそうなことだけでなく、朝食のメニュー、回診で何を聞かれたのか、ナースと何をしゃべったのか。挙句の果てには、同室の患者に、いつ、何人の見舞いが来て、何を喋っていたのかまで。しかも、その記憶は全て、言葉や音声ではなく、まるで録画したテレビのように、映像で雅貴の頭の中に残っていたのだった。
雅貴がそのことを担当医に告げると、すぐに専門医の居る病院へと移され、精密検査が行われた。事故の影響で、脳に損傷がある可能性があるためだ。しかしその結果は、「全てにおいて問題なし」というものだった。
が、問題は無くても、異常は存在した。雅貴の脳は、全体が一般人とは比べ物にならないくらい活性化していたのだ。そしてこれは、驚異的な記憶・洞察・理解力などとして、雅貴にフィードバックされた。
雅貴はこのとき、自分の脳の異常を喜んだ。自分が天才と呼ばれる人種に仲間入りすることが出来たからだ。そして雅貴は叔父夫婦に引き取られ、1ヵ月後に退院。学校にも復帰し、順風満帆な人生を送る――はずだった。
晴れて天才になり、意気揚々と学校に復帰した雅貴を待っていたのは、同級生からのいじめだった。彼らは最初こそ、雅貴の才能を羨んでいたが、その感情はすぐに嫉妬や嫌悪へと変わっていき、最後には雅貴という存在自体を憎むようになっていた。
また、それが勉強面だけならまだ良かった。人間の脳というものは、小脳といわれる部分で運動を司っているため、雅貴の運動神経も、事故の前とは比べ物ものになるはずも無かった。筋力や体力を必要とするものはそこまでではないが、集中力や反射神経、相手の挙動を読む力などが必要な、たとえば剣道などでの実力はすさまじく、それまで竹刀など一回たりとも触ったことがなかった雅貴だが、剣道部の顧問にしつこく誘われて出場した翌年の全国中学校剣道大会では、雅貴は圧倒的な強さで、最後には相手に一回もポイントを取られることなくシングルの頂点に立ってしまい、このことが同級生に更なる嫌悪感を与えてしまった。そのため、雅貴が朝礼で表彰されたとき、同学年のものは誰一人として拍手を送らなかった。
雅貴は最初こそ、苦しんだ。もう一度、皆と仲良くやりたいとも思った。が、すぐに自分の中である考えが芽生えた。
自分の才能を彼らに疎ましく思われるのは仕方がない。彼らは凡人なのだから――という、人を見下した、その上でどこか諦めたような考え。しかし、雅貴にはこれが、何よりも正しい真理のように感じられた。
すると、今まで悩み苦しんできたものが、一気にどうでもよくなった。学校も、友達も、全てが自分の足を引っ張るだけの存在にしか見えなくなり、そんなもののために今まで悩んできたことを馬鹿馬鹿しくさえ思った。
だから、雅貴は学校を辞めた。―
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ