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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
幽香、前梅雨に香る
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…。
「キンちゃん、どうしたの? ……そんなに怖い顔しないで」
わざわざ上体を起こしてまでして、白雪はキンジの顔を窺った。瞳に映るその事実がとても情けなくて、浅ましい。
とはいえこのまま、白雪を護れなかったという事実からも目を逸らして生きたくはない、ともキンジは思った。だから──と決意し、ベッドの上で足を崩している幼馴染の瞳を見据える。
「お前に、謝らなきゃいけないことがある」
「……謝らなきゃいけないこと?」
白雪はさも不思議そうに小首を傾げた。婉美な黒艶の髪の毛が、虚空を掻き分けて撫でてゆく。描いた稜線が彼女の胸中を暗に告げていた。示唆されたそれに、キンジは見向きもしない。
ただ、自分の思いの内をどうにか伝えようとすることだけに躍起になっていて、その他はどうでもよかったのかもしれない。
「勝手な俺の独断でついて行った上に、あの時、《魔剣》からお前を助けてやることすら出来なかった。本当に申し訳ないと思ってる。……俺が弱かったから、白雪を護れなかったんだ」
途切れ途切れだけれど、思いの文句と一語一句違わずに、確実に、伝える。そうして、白雪の反応がどうであろうと、伝えることは出来た──この充足感を抱いた途端、締め付けられていた胸の苦しみが、少しだけ和らいだような気がした。
白雪はそれを聞くなり、キンジにも分かるか否かのところで、そっと目を伏せる。前髪に隠れた瞳がどんな感情を含んでいたのか、果たしてキンジに分かったろうか。そうして、いつもの風体とは異なった──凛とした目付きになると、諭すように告ぐ。
「キンちゃん、そんなこと言っちゃダメ」
「……?」
おっとりした声は普段と変わらない。ただその中には、キンジの何かしらを案じるような、或いは何かしらを正すような意図──慈愛にも似たような色が、混じっていた。
「完璧な人間なんてこの世に存在しないはずだよ。ちょっとした取っ掛りで人の心を傷付けちゃうことは誰にだってあるよ。それと同じ。何であっても絶対に失敗しない人なんて、いません。
キンちゃんはキンちゃんでいいんだよ。遠山キンジでいいの。別に完璧じゃなくたっていいし、最強じゃなくたっていいの。別に背伸びする必要なんてないんだよ。失敗を悔やんでるだけじゃ、きっと、どうにもならないから……。……完璧な人よりも、最強の人よりも、本当に価値のある人はね、失敗してもそれを糧に立ち直れる人だと私は思うんです。それが出来ないキンちゃんじゃないもん。失敗の1つや2つ、気にしないでいいんだよ」
一語一句を噛み締めながら、キンジの瞳をじっと見据えて、白雪は思いの丈を全て吐き出した。気恥しそうな笑みを零しながら、
「私なんかがこんなこと言っちゃって、ごめんなさい」
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