第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
005 勝負事にこそ勝て
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て補給線を断たれてしまった」
だがそのあとのワイドボーンはさすがにたたでやられるつもりはないらしく、そこから苛烈な攻勢に転じている。
「おお、見ろ、あのワイドボーン芸術的な艦隊運動」
「凄いな、波状攻撃か。艦隊を二つに分けて時間差で陣を交換し、ヤンに休ませる暇を与えていない」
「見ろ、いつの間にか別働隊が、ヤン艦隊の背後に迂回しようとしている」
「凄いな、さすがワイドボーン」
「ヤンなんて、最初に補給部隊を攻撃したあとずっと逃げてばかりじゃないか」
「攻める余裕なんてヤンにはないのさ」
ラップはそんなことを話している学友たちを見て、眉を顰めた。つまり、ラップにもわかっているということだ。
「ワイドボーンは負けるだろう」
その言葉に驚いたのは、ワイドボーンを賞賛していた二年生たちであった。彼は一斉にその不敵な先輩士官候補生を目をやった。その中の一人が気付いた。その人物が、昨年の優勝者であるということを。
だがそれを知らない候補生が声を上げた。
「先輩、ご冗談はやめていただきたい。我が学年首席のワイドボーンがヤン・ウェンリーに負けるなど、ありえません!」
「そうだ、ヤンは逃げっぱなしじゃないか!」
「あんな逃げ腰でヤンが勝てるわけがない!」
その言葉には、自分より劣っている??と彼らは思っている??ヤンがワイドボーンに勝つということが起きてもらっては、彼らの矜持が保てないのである。ワイドボーンは十年に一度の秀才として士官学校内でも有名であった。だが、それに勝ってしまえば、ヤンはそれ以上の秀才でなくてはならない。
それはあってはならない事態であった。
そういう低次元での心理的嫌悪感に加え、その時その時の試合の形勢を判断するコンピュータも、すべてワイドボーン優位を指していた。ただ一つ、残弾数、エネルギー残量だけは違うのだが。
シトレはこの流れを、外野から興味深く見守っている。
シトレはワイドボーンの狙いを掴んでいた。ワイドボーンは序盤に補給線が断たれてしまって、焦っている。ワイドボーンも補給線が断たれてなお、無限に艦隊運動が出来るとは思ってはいない。
だからこそ、防御を捨てたと錯覚させるような苛烈な攻勢に出ている。短期決戦、つまり艦隊の活動限界を迎える前にヤン艦隊を殲滅することを図っている。
対するヤンの狙いだが、これをシトレは図りかねていた。序盤に見せた陽動部隊を用いた補給線の破壊は見事であった。だがそれ以降の艦隊運動が奇妙なのだ。
始めに補給線を破壊した時点で、ヤンの勝利条件はかなり簡単になっている。
??逃げ切れば良いのだ。
逃げて逃げて、ひたすら逃げて、敵艦隊がそれを追いかけ続けて、限界を迎えれば勝ちなのだ。
だがヤンは逃げていない。絶妙な距離を保って、ワイ
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