暁 〜小説投稿サイト〜
歪んだ世界の中で
第一話 底のない絶望その十三
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 希望の前に来てだ。こう言ってきたのだった。
「ここにいたのね」
「えっ、僕のこと知ってるの?」
「うん」
 そうだとだ。希望ににこりと笑って言ってきた。
 そしてだ。そのうえでだった。
「前に会ったから」
「前に?君と?」
「覚えてない?」
 少女は希望の顔を見て彼に問うた。
「その時のこと」
「ええと。何時かな」
 本当にわからずにだ。希望はだ。
 戸惑いながらだ。そのうえで少女に言ったのである。
「君に会ったのって」
「覚えてないのならいいの」
 くすりと笑ってだ。そうしてだった。
 少女は今度はだ。こう希望に言ったのだった。
「それなら名前言うわ」
「名前?君の」
「そう、千春の名前ね」
 まずはだ。そこから言う彼女だった。
「それ言うから」
「千春さんっていうんだ」
「そう、夢野千春」
 少女、千春は今度はにこりと笑って希望に答えた。
「それは名前なの」
「夢野さんっていうんだ」
 その名前を聞いてだ。希望はある小説家のことを連想した。
 そのうえでだ。こう千春に言ったのである。
「夢野久作の?」
「夢野久作?」
「あっ、昔の小説家なんだ」
 その彼のことをここで話すのだった。
「その名前なんだね」
「千春の名前はその人の名前なの」
「まあかなり変わった作品を書く人で」
 希望も夢野久作の作品は読んでいた。読書家である真人に勧められてだ。
 そのうえで読んだのだ。それで言うのだった。
「まあ異端文学とも言われてるらしいね」
「異端って」
「変わってるっていう意味かな」
 あえてキリスト教的な意味合いは隠して言うのだった。
「そういうことだよ」
「それが夢野久作なのね」
「そんなんだ。その人と同じ苗字なんだね」
「そうなのね」
「うん、それで夢野さん」
「千春でいいよ」
 だが、だった。千春はだ。
 ここでも微笑みだ。苗字ではなくそちらで呼んで欲しいとだ。
 こう言ってだ。希望の目を覗き込んできた。
 その目を見てだ。希望はだ。
 思わず息を飲んだ。そして言うのだった。
「あの、何か」
「何か?」
「僕に何かあるの?」
 目を覗き込まれてだ。戸惑いながらの問いだった。
「さっきから。僕を知ってるみたいだし」
「だから。会ったから」
「そう言うけれど」
「それでね。今からね」
 希望と離れてだ。それからだった。
 千春は一旦距離を離して両手を自分の後ろにやってだ。それからだった。
 こうだ。あらためて希望に言ってきたのだ。
「何処か行かない?」
「何処かって」
「そう。何処でもいいから」

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ