第一話 底のない絶望その九
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「そうするといいです」
「そうなんだね」
「はい、ではです」
「それじゃあもっと森の中にいよう」
「じゃあ」
こう話してだった。そのうえでだ。
二人で森の中を歩きだ。その中も見ていた。
どの木も立派な木だ。そしてだ。
その木の中を歩いているうちにだ。ふとだ。
一本のだ。細い木を見た。その木を見てだ。希望はふと言ったのだった。
「この木何か」
「どうかしましたか?」
「うん、何か違うね」
その木を見ての言葉だった。
「穏やかに立っていて。それに」
「それにですか」
「優しい感じがするね」
「言われてみれば」
真人もだ。希望の言葉に応えてだ。
その木を見る。二人で木を見ている。
そしてその中でだ。希望はあるものを見つけたのだった。
「あれっ、ここに」
「何か?」
「ああ、よくないね」
見れば木にだ。蔦が絡まっていた。それが木の根にあったのだ。
その蔦を見てだ。希望はだ。
蔦をその手でどけた。ただ蔦は切らなかった。
蔦を傷つけないようにしてそれをどけてからだ。木を触って言ったのだった。
「これでいいね」
「蔦が絡んでたんですか」
「うん、何か嫌そうな感じだったから」
「木がですね」
「そんな気がしたんだ」
それでだ。蔦をどけたのだ。
そうしてからだ。彼は真人にまた話した。
「ちょっとしたことだけれど」
「ですがそれがなんですよ」
「それが?」
「木にとっては有り難いことなんですよ」
真人は微笑み希望に話すのだった。
「遠井君が今した様なことが」
「そうなのかな」
「見ている人は見ていますよ」
「見ている人は」
「それが人でないかも知れませんが」
真人の言葉はここでは幾分幻想的なものになった。
そしてその幻想的なものをそのままにしてだ。彼は希望にさらに話した。
「ですがそれでもです」
「僕を見てくれているんだ」
「そうです。ですから」
「今、本当に辛いけれど」
「辛いことも必ず終わりますから」
「終わるのかな、本当に」
このことは今の希望にはだった。
とても信じられなかった。それで言ったのだった。苦しい顔で。
「今の僕はとても」
「辛いですよね」
「死にたいとさえ思ったよ、何度もね」
一度や二度ではなかった。それこそ何度でもだ。
真人もまた見てだ。そして述べたのである。
「けれど遠井君がいてくれたから」
「僕ですか」
「助かってるんだ」
その言葉にだ。最後の救いがあった。
その救いを見てだ。彼は言ったのである。
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