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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
梔子とぺトリコール、紅涙
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いでしょうがなかった。どんな感情を抱いているのかという予想を、あらかた付けてしまっているからこそだろう。


「……君が何を思っているのかは分かりかねるけれども──ほら、百人百様、千差満別。人それぞれ良いところはあるからね。それが同じこともあれば違うこともある。白雪が持ってないものをアリアが持ってるかもしれない。逆もまた然り。あんまり気にする必要なんてないよ。そのままで十分に魅力的だから」


『これは慰めでもなんでもなくて、本心だからね』と、そんな意図を裡面に秘めながら告ぐ。つい先程まで藍に暮れていた赤紫色の瞳が、今は白色灯に照らされて爛々としていた。


「……そっか。ありがと」


やっぱり、この子にはこれがお似合いなのだろうとつくづく思う。五月晴のような磊落な笑みと、気位に満ちたような声色と、他にも──1つでも欠けていたら、何か物足りない気がした。


「ともかく彩斗が無事で良かった。これに懲りたら、もう格好付けて見栄を張らないこと。いい?」
「だから、見栄張ってないって……」
「ゴチャゴチャ言わないの。でもまぁ、彩斗も見るところ、明日にはもう帰れるでしょうし──」


すぅっ、と1拍の間を置く声が、アリアの咽喉の奥から漏れ出た。それはさながら、いつもの磊落な彼女のようで、か弱い少女のようでもある。そんな中途半端な風だった。


「──それならアタシが先に帰って、待っててあげるから」


何故だか落ち着きのない感じで口早に言い残すと、アリアは小走りに病室の扉へと向かっていった。 忙しそうに取手に手を掛ける姿が、どうにも愛らしく思えてしまってしょうがない。
忙しない自分が何かを言い残したことに気が付いたのか、彼女は扉を閉める直前に、その隙間から苦笑混じりに笑いかけた。


「それじゃ、ちゃんと安静にしてるのよ」
「ありがとう。アリアも家路は気を付けて」
「うん。バイバイ」


お互いに扉を挟んで手を振って、振り返した。

もう1度、窓硝子のその向こうへと目を遣る。藍に暮れた五月空には、人知れず端白星が瞬いていた。そうして東京湾は、その藍より深い藍色だった。深淵を覗き込んでいるような、そんな錯覚に襲われる。泡沫のように浮かぶ屋形船の朱灯篭だけが、唯一の救いだった。あとは、全面に零れた藍のインクのせいだろうか。あの泡沫が、どうしても赤紫色に見えてしまっていた──。
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