暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
梔子とぺトリコール、紅涙
[6/6]
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
いでしょうがなかった。どんな感情を抱いているのかという予想を、あらかた付けてしまっているからこそだろう。
「……君が何を思っているのかは分かりかねるけれども──ほら、百人百様、千差満別。人それぞれ良いところはあるからね。それが同じこともあれば違うこともある。白雪が持ってないものをアリアが持ってるかもしれない。逆もまた然り。あんまり気にする必要なんてないよ。そのままで十分に魅力的だから」
『これは慰めでもなんでもなくて、本心だからね』と、そんな意図を裡面に秘めながら告ぐ。つい先程まで藍に暮れていた赤紫色の瞳が、今は白色灯に照らされて爛々としていた。
「……そっか。ありがと」
やっぱり、この子にはこれがお似合いなのだろうとつくづく思う。五月晴のような磊落な笑みと、気位に満ちたような声色と、他にも──1つでも欠けていたら、何か物足りない気がした。
「ともかく彩斗が無事で良かった。これに懲りたら、もう格好付けて見栄を張らないこと。いい?」
「だから、見栄張ってないって……」
「ゴチャゴチャ言わないの。でもまぁ、彩斗も見るところ、明日にはもう帰れるでしょうし──」
すぅっ、と1拍の間を置く声が、アリアの咽喉の奥から漏れ出た。それはさながら、いつもの磊落な彼女のようで、か弱い少女のようでもある。そんな中途半端な風だった。
「──それならアタシが先に帰って、待っててあげるから」
何故だか落ち着きのない感じで口早に言い残すと、アリアは小走りに病室の扉へと向かっていった。 忙しそうに取手に手を掛ける姿が、どうにも愛らしく思えてしまってしょうがない。
忙しない自分が何かを言い残したことに気が付いたのか、彼女は扉を閉める直前に、その隙間から苦笑混じりに笑いかけた。
「それじゃ、ちゃんと安静にしてるのよ」
「ありがとう。アリアも家路は気を付けて」
「うん。バイバイ」
お互いに扉を挟んで手を振って、振り返した。
もう1度、窓硝子のその向こうへと目を遣る。藍に暮れた五月空には、人知れず端白星が瞬いていた。そうして東京湾は、その藍より深い藍色だった。深淵を覗き込んでいるような、そんな錯覚に襲われる。泡沫のように浮かぶ屋形船の朱灯篭だけが、唯一の救いだった。あとは、全面に零れた藍のインクのせいだろうか。あの泡沫が、どうしても赤紫色に見えてしまっていた──。
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]
違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
しおりを解除
[7]
小説案内ページ
[0]
目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約
/
プライバシーポリシー
利用マニュアル
/
ヘルプ
/
ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ