暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
梔子とぺトリコール、紅涙
[1/6]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
次に目を覚ました時に見えたのは、見慣れない天井だった──と表現するのは些か愚直だろうけれども、今の朧気な自分の頭では、それくらいしか思い浮かばなかった。
指先を這わせて、その伝ってくる感触を思うに、どうやらベッドに横たわっているらしい。視界の端には、キャビネットやらテーブルソファやらが見える。

自分やアリアの部屋でないことは確かだった。少しだけ開かれている窓の隙間からは斜陽が差していて、この目線からは、紫金に染まった千切れ雲が揺蕩っていた。黄昏時のぺトリコールが、東京湾の潮風に乗って鼻腔を擽ってゆく。
傍らではアリアが椅子に腰掛けながら、何やら物憂げな風にこちらを覗き込んでいた。赤紫色の瞳に浮かんでいるのは……?

その瞼に浮かぶものが何なのかを察する暇も無いまま、不意に、ぎゅっと胸が──上半身が締め付けられる感覚がする。ぺトリコールに混じった梔子のような香りも、嗅覚を蕩かせていった。
空を舞ったアリアの髪が頬を擽っていく。首に回された華奢な腕は、心做しか震えているように思えた。顔は胸元に埋められていて見えない。ただ、泣いていることだけは直感的に分かった。


「……らしくないね」


苦笑しながら、乱れている髪を手櫛で整えてやる。『アタシは絶対に泣いてない』とでも言うかのように──アリアは僅かに、かつ、珍しく弱気な風に頭を振った。
……あとはただ、何かしら感情の凝縮された嗚咽を堪える声だけが洩れていて、そうして、この空気に融けていくだけだった。

首筋の温もりに身を預けてしまっている。夢見心地の中で、何分くらいこうしていたろうか。射し込んでいた斜陽の大半がここに留まるのを退屈に思うくらいには、時間が経ってしまったようだ。影が紡ぐ黄昏時の集塊に、こうして2人で呑まれている。


「…………良かった」


咽喉の奥に纏わりついていた嗚咽はもう、聞こえない。絞り出されたアリアの声は、今にも手折られてしまいそうな路傍の花のような儚さと──一点の穢れもない胸の内だけを、内包していた。
そこに改めて、如月彩斗と神崎・H・アリアという少年少女の掛り合いの強固さを思い知らされる。不器用な子供が結んだ糸のような、解きたくても容易には解けないような、そんな関係。

「……心配かけて、ごめんね」そう言おうとしたけれども、吐息が洩れるだけで、思うように声が出せそうにない。伝えたい言葉は咽喉にまで来ているからこそ、もどかしいのだ。
──そっと、アリアの肩を抱き返す。歳相応の少女の華奢な身?は、力加減さえ間違えれば瓦解してしまいそうだった。内には、あの温もりと同じものを秘めている。そして、その確かな温もりが、衣服を隔てたすぐそこには存在していた。

アリアが抱きしめられた時の、動揺と羞恥が入り交じった、身振
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ