肆ノ巻
御霊
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「はい、瑠螺蔚さん」
ポクリポクリと馬の背に揺られて帰る小道の道中、ふと高彬が馬を止めて降りていった。
藪からすぐ戻ったその手には、濡れた手布があった。
それはまっすぐあたしに差し出されている。
「ん?なあに?」
「……顔、汚れてるから」
「え、ホント?どこ?」
あたしはぺたぺたと自分の顔面を触った。
なにせ幽霊に体を貸して意識を失っていた手前、悠があたしの体でなにをどうしていたかは全く知らない。だからまぁ、なにをしたのか、顔が汚れることもあったのだろう、きっと。
手触りではどこが汚れているのかわからないなぁ泥とかではなさそう…と思っていると、高彬がなんだか複雑な顔で拭いてあげるから降りてと言う。
「え?いや別に大丈夫よ?自分でやるし」
「いいから、降りて」
くいくいと裾を引かれるので仕方なく言うとおり降りる。するとあたしの右頬を、高彬はぐいぐいと拭きはじめた。いたたっ、ちょっと、乙女の柔肌なんですからね!もっと丁寧に拭きなさいっての!
「なに、なにがついてたの?」
「………」
「えっ、なんで無言!?」
「…」
はぁ、と高彬は息をついた。それから両手をするりとあたしの首の後ろに回す。そのままそっと抱き寄せられて、高彬はあたしの肩のあたりに顔を埋めた。
なんだか最近?よく抱きつかれてる気がするわね。
「…エート…」
「いや、瑠螺蔚さんが戻ってきてくれたんだから、こんなことは細事だな…」
「いや顔にゴミついてるくらい許しなさいよ。多少汚くても本体はあたしでしょ?てか悠は?どうなったの?」
「旅立ったよ。瑠螺蔚さん、あなたにありがとうと」
「え、ほんとに?」
聞き返すのは許してほしい。超反発的だった悠の態度を考えれば俄には信じられない。戦意喪失してたとはいえ、本気で殺そうとしていたあたしに礼を言っていたなんて。
「亦柾にちゃんと好きって言えてた?」
「言っていたよ」
「おーすごい。じゃあ満足したのかなぁ?」
それならいいな。…うん、良かった。どんな人であろうと、みんなが幸せなのが一番だよね!マルっ。
「そうだろうと思うよ」
「良かった〜これで一件落着、かな?さ、高彬、帰りましょ!」
今までと同じようにひとつ馬に高彬と二人で乗る。
帰る…帰る、かぁ…。とりあえず今は勝手知ったる石山寺に
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