肆ノ巻
御霊
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向かってるけど、あたしが本当に帰る場所は違う。近くとも遠い、前田家だ。ピィとか尼君様とか呼ばれてた名無しの身は棄てて、前田瑠螺蔚に戻る。前田の惣領姫に。
なんだか随分と長い間みんなに会っていない気がする。まぁ帰るっていっても、前田家が全焼したのは変わらないから、あたしは宿無しだ。まさかまた一族でもない佐々家に厄介になるわけにもいかないし、あたしも父上と一緒に前田の分家に行くんだろうなぁ…。本家から一番近いって言っても、結構遠いんだよな、あの分家…。石山寺からも逆側だし。そうしたら、まさか高彬も今までみたいに気楽に訪ねてこれはしないだろう。
それから、抹、惟伎高。この二人ともさよならだ。
出会いあれば別れあり、なんだけど…やっぱ寂しいな…。
ううんっ!今生の別れってわけじゃないし、会おうと思えばいつでもまた会える、わよね?
なんて悶々と考えながら、ぎゅうと高彬に抱えられて、石山寺の山門をくぐる。
「ただいまー!」
「おう、帰ったかァ。おけーり、ぐえっ!」
挨拶がわりに竹箒を持っている惟伎高の腹部に右拳を打ち込んでにっこりと笑う。
「抹は?」
「そ、それでこそ本物のピィだァよ…抹は室だ。準備してェる。高彬どのも、御無事で」
「はい、只今戻りました。義兄上も、おかわりなく」
「準備…」
ハッとした。抹は、言っていた。家に帰ると。
「すれ違うかと思ったぞ。おまえが間に合って良かった」
惟伎高は全てをわかっているような優しい顔であたしの頭を撫でた。目が合うとニッと笑う。
あーもう!ばか惟伎高!あんたは本当にいい男よ!悔しいけどね!
あたしはお返しにイーッとしてから駆け出した。
「高彬どの、本当にあの姫でいいのですか?」
「困ったことにあの姫がいいのです。…義兄上も、おわかりでは?」
「いやいや、わたしは貴殿と違って、いくら腕で囲っても飛び立たれるような小鳥はとてもとても」
「はは、骨身に染みております。しかしもう、かの姫以外は考えられない」
「これは、あてられましたかな。大きくなられた、高彬どの」
「あんたたちっ!悪口しっかり聞こえてんだからね!?戻ったら覚えておきなさいよ!?」
「おお、こわやこわや」
「悪口だけじゃなくていいところも聞いておいて欲しいものだけど」
わちゃわちゃ言ってる男二人を背にあたしは足を動かす。
「抹っ!帰って来たわよ…ん!
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