六十五匹。
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「シラヌイ」
「んにゅぅ……ぅ?」
医務室のベッドでシラヌイが目を覚ました。
既に日は登っている物のまだ早い時間だ。それでも耳を澄ませば城の諸々の音が聞こえる。
「お婆様」
「うむ。元気そうじゃな」
タマモの大きな手がシラヌイの頭を撫でる。
シラヌイもそれに応えるように顔を擦り付ける。
一通りやると、シラヌイがじっとタマモを見つめる。
「お婆様」
「どうした? そんな悲しそうな顔をして」
「…………………………」
シラヌイはどう言えばいいか、何から言えば良いかを考え込み、黙ってしまった。
タマモはそれを何も言わず、ただ待っていてくれた。
長い長い沈黙の末、シラヌイがタマモに尋ねた。
「何かあったら、お婆様は僕を殺してくれますか?」
泣きそうな声だった。
タマモは一息ついて、笑って答えた。
「っはっはっは! 孫を宥めるくらい儂が出来ぬはずなかろう」
タマモがシラヌイを九本の尻尾で包み込む。
「シラヌイ。御主がおそれているのは、御主の中の妖じゃろう。
ヴァンパイア。西欧において竜や神を覗けば最上位に位置する存在じゃったか」
ヒトがなりうる存在の中でも上位の存在。
「しかし案ずるなシラヌイ。この世界はデミウルゴスの世界よりも力に満ち溢れておる。
そもそも、造物主であるサークリオンとデミウルゴスの間には蟻と竜程の力の差が存在する。
お主の力は、この世界では脅威ではなく個性として成り立つ。
その力で誰かを傷つけるのであれば問題じゃが、その時は儂が叱ってやる」
シラヌイはそれを聞いてスッと心が軽くなるのを感じた。
「ありがとう。おばあ様」
その後シラヌイはタマモの尻尾に包まれたまま、クーコの私室へと運ばれた。
クーコの私室は当然ながら王宮の奥にある王族のプライベートエリアにある。
ちょうど王族が起きだす時間帯なのか、メイドや執事がせわしなく動いている。
現在このエリアで住む者は多くはない。国王アルフレッドが若いころの権力争いに嫌気がさし妻をツェツィーリアしか娶っていないからだ。
それに倣ってか王子であるアーネストも妻はトレーネ一人だ。
そういう理由もあってあっさりとクーコの部屋にたどり着いた。
城のメイドがドアの前で待機していた。
「シラヌイを連れてきた。クーコ達はまだねているかの?」
「おそらくはまだ寝ているかと。昨日シラヌイ様が目覚めたという報告を聞きやっと寝ましたから」
「そうか。では抱き枕の差し入れじゃ」
タマモはもっふもふの尻尾の中から寝息を立てているシラヌイを取り出してメイドにドアを開けさせた。
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