ターン36 家紋町の戦い(後)
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「八卦ちゃん……!」
当然本人に聞こえるはずもないのだが、画面の前で倒れた少女の名を呼ぶ糸巻。2対2で始まった変則バトルロイヤルも、これで残るは正体不明の男と初心者の竹丸のみ。明らかに怯えの色を浮かべて後ずさる少女の足は、しかし八卦から興味をなくしたかのように最後の生き残りへと振り返った男の視線に射すくめられて止まる。それは決してポジティブな感情によるものではなく、足がすくんで動けなくなったのだ。
「八卦……ちゃ……」
親友の名を呼ぼうとするも、極度の緊張と恐怖に乾いた舌はうまく回らない。そんな情景を見せつけられ、しかし何もできない現実にただ顔を歪める糸巻には、巴もまたこの光景に喜ぶどころか、むしろ訝しげな表情を浮かべていることには気づかなかった。そして画面の中で、男がゆっくりと口を開く。
「デュエルを続けよう。それとも、サレンダーするかね?」
「え……?」
「サレンダー、降参だ。残念ながら見逃すことはできないが、少なくともこれ以上痛い思いをすることはない」
予想外の言葉に、呆然と立ち尽くす。
「サレンダー勧告?ずいぶんお優しい提案のできる奴を送り込んでくれたもんだ、その気配りに涙が出るぜ」
竹丸にとってこの勝負の行く末は暗い、それは糸巻のプロとしての視点でも認めざるを得なかった。並のプロ相手なら互角に渡り合える八卦をいともたやすく手玉に取ったこの男、見ない顔ではあるが実力は間違いない。ここまでの流れを見たところ凄まじい引き運や必殺のコンボがあるわけではないが、とにかく場を作る能力に長けて勝負の流れを自分の所に手繰り寄せる手腕がある。典型的な「なぜ勝っているのかわからないがいつのまにか勝っている」タイプだと彼女は見た。このタイプは得てしてとにかくまぐれ勝ちを拾い難く、隙を見せないことを前提に実力で叩き伏せる以外の対策がない。
元プロの糸巻ですら言うは易く行うは難いというのに、まして竹丸はまだ初心者に毛が生えた程度。そのうえ、心が既に折れかかっている。無理もないことだ。
だからこの勧告は、むしろ真っ当なものであるはずだ。それでも糸巻は、心に刺々したものが生じるのを感じていた。我ながら身勝手だと思う。理不尽だと思う。しかし勝負を捨てることを良しとしない戦士としての感覚が、目の前の光景に対する本能的な嫌悪感をどうしようもなく生じさせていた。
「いえ……妙だ」
「あー?」
しかし巴はどこか上の空、皮肉たっぷりの糸巻の言葉にもいつもの毒舌を返さない。
「そもそも彼は、私がスカウトした中でも切り札級の男。確かプロデュエリスト養成校からデビュー寸前のところまでいった期待の新星、という触れ込みでしたか」
「切り札?まあそこそこやるようだが、まだアンタの方が強いだろ?」
「貴女に面が割れて
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