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MOONDREAMER:第二章〜
第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
第80話 あの人からのお招き3/3
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彼女とて些か驚いていた。
 こうも14歳の人間の少女に言わしめさせる程、彼女の母親は問題なのか、そして勇美の覚悟はそれ程のものなのかと。
 勇美の言った通り、紫にとって記憶の境界を操り彼女を正式な幻想郷の一員にしてしまう事は造作もない事だろう。
 だが、ここで紫は簡単には首を縦には振れないのであった。何故なら、紫は最初から幻想郷に受け入れられる事を考えてはいなかったからだ。
 紫は様々な常軌を逸した経験をした先に幻想郷へと行き着いたのだ。つまり、最初から望んでいた訳ではないのだ。願わくば元の世界で、かけがえのない親友と貴重な時間を過ごしたかったのである。
 だが、勇美は紫とは違い自ら望んで幻想郷の一員となろうとしているのだ。だから紫は勇美にちゃんと確認をしておきたかったのだ。
 なので、紫は静かに口を開いたのである。
「……勇美さんは、それでいいのかしら?」
 そう言われた勇美はゴクッと唾を飲んだ。今の紫には有無を言わさぬ重い雰囲気が醸し出されていたからだ。
 その事が示すのはただ一つ。──この選択をしたらもう後戻りは出来ないという事だ。
 故に勇美には未だかつてない緊張が走るのであった。だが……。
「私の心は決まっています、お願いします」
 とうに勇美の答えは彼女の中で既に出ていたようだ。そう言葉を返した彼女の表情には一切迷いがなかったのであった。
「……もう決めたのね?」
「ええ、幻想郷での生活こそ私らしさだと今まで経験で感じましたから。あの母親の元に戻ったらもう私らしく生きていけないでしょうね」
 そう勇美は言い切ったのだった。
 その事を彼女の母親が聞けば、勇美の事を自分の一部だと思っているが故に許さないだろうし、『逃げ』だと称して思考停止させるような高圧的な物言いで責めてくるだろう。
 だから勇美は強く思うのだった。『だったら逃げてやろうじゃないか』と。これは一生一大の逃げだと。
 例え母親が許さなくても、紫の手により記憶を改ざんしてしまえばいいだけの話なのである。だから勇美は紫に懇願したという事だ。
 そして、それだけの覚悟を勇美から向けられた紫の方も迷いはなくなっていった。
「もう、迷いはないのね……」
「はい!」
 その二人のやり取りが行われたこの瞬間、勇美のこの先の生き方が決まったのであった。
 その覚悟の一歩を踏み出した勇美に、紫は言い始める。
「それなら勇美さん。あなたにはこれを受け取って欲しいわ」
「何ですか?」
 そう聞き返す勇美の前に、紫が取り出したのは……鮮やかな赤のリボンであった。
「リボン……ですか?」
「ええ。でもただのリボンじゃないわ。分かるかしら?」
 そう意味深に振る舞う紫。そこにはいつもの胡散臭さが少し戻っているかのようだ。
 紫に言われて暫し考え込む勇美
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