第十幕その二
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「助かった人もいるよ」
「ペニシリンがなくて」
「そうしたんだ」
「そんなお話もあるんだ」
「うん、結核は今もあるけれど」
それでもというのです。
「日本ではずっと深刻だったんだ」
「脚気もそうで」
「梅毒もで」
「日本の三つの国民病だったんだ」
「明治の頃はね、幕末までは天然痘もあったよ」
この病気もというのです。
「それで四つだったよ」
「さっき天然痘のお話も出たけれど」
「天然痘はもうないけれど」
「あの病気も怖かったのよね」
「命を落とす位に」
「助かっても顔があばただらけになるしね」
このこともあるというのです。
「それで差別された人もいるし。さっき夏目漱石さんの名前出したけれど」
「あの人天然痘にもなってたんだ」
「そうだったのね」
「結核だけじゃなくて」
「天然痘にもなんだ」
「なってしまっていてね」
それでというのです。
「お顔にあばたがあったんだ」
「あれっ、写真見たらないよ」
ここでこう言ったのはトートーでした。
「あの人の写真には」
「そうそう、お札にもなってたけれど」
ダブダブも言います。
「あばたないよね」
「天然痘のそれがね」
ポリネシアも言いました。
「ないわ」
「どの写真でもね」
ホワイティはこれまで見た夏目漱石さんのお顔写真のそれを思い出します、するとどの写真でもでした。
「あばたないよ」
「絵でもないし」
ジップも言います。
「漱石さんの絵もあるけれどね」
「如何にも落ち着いた紳士だね」
「そうよね」
チープサイドの家族も言います。
「お写真の漱石さんは」
「結構顔立ち整ってる?」
「芥川さんや太宰さんみたいな美形じゃないけれど」
ガブガブはこの人達を思い出しました。
「悪い顔立ちじゃないね」
「そうそう、教養も感じさせる」
チーチーも言います。
「そんなお顔立ちだよ」
「それでどの写真にもあばたないよ」
老馬も指摘します。
「夏目漱石さんは」
「結核はわかったけれど」
「あばたはないから」
オシツオサレツは二つの頭を傾げさせています。
「どのお写真にも」
「あったとはね」
「それはどの写真も修正してもらっていたからだよ」
先生は皆にこうお話しました。
「だからなんだ」
「ああ、あばたはないんだ」
「写真修正してもらってたから」
「それでなの」
「今もする人いるけれど」
「漱石さんもなんだ」
「漱石さんはあばたのことをかなり気にしていたから」
それでというのです。
「どの写真もなんだ」
「修正してもらっていたんだ」
「成程ね」
「だから写真の漱石さんにはあばたがないんだ」
「そういうことだったの」
「うん、あの人は他にも糖尿病や胃潰瘍もあった
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