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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第52話 軍と家族
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アントニナにも言えない。だがその為には自分の自由を犠牲にすることを厭わない。そういうものさ」
「それは……うん。僕にもある」
 アントニナは何となくではあるが自信げに頷いた。
「僕自身にも軍人になる目的というのはある。勿論、兄ちゃんには言えないけど」
「だがアントニナは明らかに性格が軍人向きじゃない。本音を言えば無理だ、と思えるくらいの致命的な欠点だ」
「なにがさ!」

 急に歩みを止め、両拳を地面に伸ばし、俺を見上げるきめ細かい褐色の端正な顔には、今まで見たこともないような鋭い殺気と反抗心の籠ったグレーの瞳があり、俺を突き刺す。まさに飼い主に裏切られて野生化した犬のような瞳。その瞳に映る振り向いたままの俺の顔は、何の感情もない冷たいものだ。

「軍は組織で、軍人は組織の一部品として動く。たとえ納得できない事態があっても納得しなければならない。そうでなければ組織は十全にその能力を発揮することができず、結果として市民と国家に重大な損害をもたらすことになる」
「……」
「どのような組織でも大なり小なりそれはある。だが軍は人間の命が天秤にかかっている。故にどんな理不尽な命令であろうと、軍規に即している限りにおいては従わなくてはならない。わかるか?」
「……」
「仮に今の応答を軍でやってみろ。悪ければお前は抗命罪に問われ、問われればほぼ間違いなく軍から追放される。軍とはそういう理不尽極まりない組織なんだ」
「……」
「筋を通し納得がいかないことにはとことん噛みついてくる、アントニナの性格は人間としては誇れるべきものだ。だが軍という組織はアントニナの誇るべき性格を真っ向から否定し潰すだろう」
「……」
「士官学校入学試験を受けるのは自由だ。だが軍人になるというのは、少なくとも基本的人権が否定されることもあるということをはっきりと理解すべきだ。それを理解した上で、もう一度ゆっくりと考えてから結論を出せばいい。幸い願書の提出期限はまだ先だ。ただ、これだけは言っておくぞ、アントニナ」
「……」
「士官学校に合格できなかったら、軍への志願は止めるべきだ。士官ならまだしも、下士官や兵士はアントニナには務まらない」

 殺気の半分が困惑に代わったアントニナの視線と、左肩越しにそれを見返す俺の視線が、両者の中間でぶつかる。火花が散るかと思えるほど鋭く、実時間では短い無言のやり取りは、俺のほうから切り上げた。いつもよりゆっくりと。半分の歩幅で歩きだす俺の後ろを、アントニナは一〇歩離れてついてくる。 家に着くまでずっと無言のまま行進は続き、俺は玄関でレーナ叔母さんにアントニナを引き渡した。叔母さんもアントニナの様子からなにか悟ったみたいではあったが、何も言わずに敬礼とお辞儀だけして別れた。

 それから無人タクシーを呼ぶことなく俺はゴールデ
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