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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第52話 軍と家族
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されている。俺がハイネセンに帰ってきた時点で正式に発表されたわけでもない(おそらく第四次)イゼルローン攻略戦とエル・ファシル奪還作戦の動員兵力を殆ど正確に推測しているのだから、準備期間として二月下旬が忙しくなるのは誰でもない後方勤務である彼が一番よく知っている。

 そのタイミングで結婚式を入れるというのは、そうでもしなければ休暇が取れない人間が多いと分かっている故に、気を利かせたということだろう。二度と会えなくなるかもしれないわけだから……

「それより戦略部はどうなんだ、ウィッティ。貧乏司令部とは違って忙しくてもやりがいはあるんじゃないか?」
「士官学校と変わらないさ。先輩が上司になったってだけで、いい奴と気に入らない奴が半々だ」
 肩を竦めるウィッティの顔には皮肉が浮かんでいる。
「幸いウィレム坊やとは違う部署だが、時々顔を見るくらいの距離にはいる。最近はいたくご機嫌斜めだ」
「『エル・ファシルの英雄』か」

 視線で頷くウィッティに、俺は鼻で笑った。

 ホーランドは首席、翻ってヤンは中の上から中。四つ年下の凡才と階級が並んだばかりか、軍内外の知名度で大きく差を付けられた。奴はブルース=アッシュビーの再来を目している以上、実戦部隊配備前のスタートラインで強力な年下のライバルにさぞかしヤキモキしていることだろう。

「奴は実戦部隊への異動でも考えているのかな?」
「出動予定の各艦隊の予備参謀か『機動集団の幕僚』の席ならねじ込められるらしいが、本人は上級司令部の幕僚か戦艦分隊の指揮官を望んでいるみたいでな」
「何をアホなことを」
「功績亡者も露骨すぎるものだから、一部から相当煙たがわれてる。優秀なのは間違いないし、ロボス中将の受けも悪くないから、今回は見送りだろう。出番があるなら『第五次』だな」

 ウィッティの自嘲気味の返答に、俺は溜息をついた。今回の作戦における戦略部の意気込みとは裏腹に、ウィッティ自身の目算では相当に良くないらしい。直接的な言葉でないだけに、主進攻口ではないにしても出動する側の俺としては胃が重くなる。それを察したのか、ウィッティはカップを皿に戻してから、俺をまっすぐ見据えた。恐らく次に話す言葉が、ウィッティがこの司令部に来た本当の理由だ。

「ヴィク。悪いがそちらの作戦で『増援』は計算に入れないでくれ」
「アスターテから帝国軍が出てこないだけでまずは十分だ。そこまで気にしないでくれウィッティ」
「ビュコック少将閣下にも『力不足で申し訳ない』と伝えてほしい。これは俺の上司のクブルスリー少将閣下からだ」

 情報分析にも定評がある戦略研究科の若手であるウィッティは、直接には言いづらい伝言を頼まれるほどにクブルスリーから信頼されている。故にクブルスリーが思ったより早く統合作戦本部長に就任し
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