ターン35 家紋町の戦い(前)
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もはやエンタメ性の欠片も残っていない殺風景な広間に踏み込んだ巴が最初にしたことは、片手で引きずってきた清明をぼろ雑巾か何かのように投げ飛ばすことだった。
「邪魔です」
細腕からは想像もつかないほどの力で床を転がされ、何度か打ちつけられて糸巻の近くまで来てようやく止まる清明。今の衝撃で目が覚めたのか、体を震わせながらどうにか起き上がろうとして……結局は、その場に無様に倒れ込んだ。
それでも倒れたまま無理に顔を上げ、糸巻の方へ顔を向ける。
「……ごめん。負けちった」
「見りゃわかるわ。もういいから寝とけ」
言うだけ言ってまたがっくりと崩れ落ちる清明を見下ろしながら、巴がゆっくりと歩き出す。単に急ぐ意思がないというよりも、まるで何かを待っているかのように妙に緩慢な動作。
「そこの彼も前評判からすると、もう少し楽しめるかと思っていたんですがね。というより、明らかに普段の半分も力が出せていない風でした。何か理由あってデッキに不自然な弱体化を入れたのか……それとも、最初から勝つ気がなかったんですかね」
「アンタにしちゃ随分珍しいな、精神分析の真似事か?一体何企んでやがる。前置きなんざ今更だ、さっさと始めようぜ」
そして、腐ってもライバルである男の違和感に気づけないほど糸巻は鈍くない。むしろ、どこまでも相容れないこの男のことであるからこそ、かえって勘が冴えるというべきか。剣呑に睨みつける鋭い視線に肩をすくめ、巴が足を止めることなく返事代わりに軽く片手を上げる。
するとその瞬間、広間中の明かりが一斉に消えた。まるでこの部屋に最初に入った時のような暗黒に包まれる中で、咄嗟に反応できなかったことを悔やむ糸巻の耳に声が響く。
「まあ、そう急ぐこともないでしょう。がさつな貴女には理解できない感覚でしょうが、私にも矜持というものがありましてね。そのひとつが、糸巻太夫。貴女を倒すときにはこの私の手で、最大限の屈辱を与えたうえでその心をへし折ると決めているんです」
それは、妄執としか形容しようのない想い。しかし、そんな歪んだ思いのたけを聞いた糸巻は衝撃を受けるでもなく、それどころか深々と頷いていた。今の言葉が、普段めったなことでは表に出さない巴光太郎という男の本心であり、同時に自分がこの男に対し抱いているそれであることを理解したからだ。
本来、糸巻太夫と巴光太郎は同じ世界に同時に存在してはならないものであった……と言えば、他人はそれを笑うだろう。だが彼女と彼、糸巻と巴の2人にとっては嘘偽りなく、疑問をさしはさむ余地のない厳然たる事実なのだ。
「そんなわけで、ひとつ貴女に見ていただきたいものがあるんですよ。おそらくは、もう少しで始まるはずですよ」
パチンと指を弾く音が響くと、暗闇の中に突然四角いスクリー
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