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同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
帝冠の共和国〜アルレスハイム王冠共和国にて〜(下)
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最大公約数を穏当に話してもバーラトでどのように受け止められるのかしらね?セイムと同盟議会で同じことを語っても受け止められた方どれほど違うのか」
 その声は朗らかだがどこか冷やかな空虚さを感じさせる。
「本当に私達とバーラトは同じ国なのか民草は信じられるのかしらね――異国の者と見なせばその行く末は――」


「陛下!」
 鋭い声でリッツが止めに入った。

「はいはい、ごめんなさいね、いい子にしてますよ」
 もういいかしらね、と言ってゴールデンバウム女史はさっさと執務室を出ていく。
もとより実権を持つ気はないと振舞っているが、彼女も政治の現実に思うところがあるのだろうか。

「‥‥‥悔しい事だが間違っておらんな、人が死に過ぎた。アルレスハイムが、ヴァンフリートが、アスターテが、エル・ファシルが、落ちれば次はどこだ、そのまた次は――、という意識が辛うじて自由惑星同盟としての連帯を保っている、露悪的な言い草だがそうした理由は間違いなくある」
 ハンソン首相はフリープラネッツ労働組合総連合の中央執行委員会に身を置いたこともある。アルレスハイムだけではなくあちらこちらの組合幹部と伝手を持っている。
 それだけに同じ労働者といえど見えるものが違うというのは事実として受け止めているのだ。

「首相閣下」

「リッツ、あの忌々しき陛下はな、アレで物が見えているのだ。何も考えとらん振りをして形式通りに物をこなしているだけだ。俺はそれが気に食わん!」

「見えても立場上口にしたくない、ということでしょうね」
 それを冗談に紛れ込ませて語る程度には信頼を得ているのだと受け止めている。ハンソンもそれを分かっているから憎まれ口をたたいているのだろうが。
 だからだよ、とハンソン首相は唸る。
「民主共和制にもいくらか悪い点があるのはわかっている、だがそれでもアレは共和制国家の方が生きやすかろうよ」
 そうすればセイムでコテンパンにしてやるわい、と左翼のオジキが鼻を鳴らす。
 いや、この国も王冠共和国ですが、というツッコミをする人はいない。

「どうでしょうか、いえそうかもしれませんが――」
 しかし万民にとってはどうだろうか、とリッツは思考を巡らせる。ある意味で同盟のような国にこそ、彼女のように俗世の利害関係から切り離した――と多くの人に信じさせナショナリズム(国家意識)を象徴する存在は必要なのかもしれない。あぁだがもちろん、亡命者でもアルレスハイムで生まれ育ったわけでもない人間が系統は違えどゴールデンバウムを戴くなどできるとは思っていないが。
 リッツは年若い象徴元首の言葉を反芻する。

 ――かくのごとく戦争が続き社会は分断されつつある、同盟という国家の国民として生き残らねばならぬがそれすらも悲嘆により分断されつつある、
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