暁 〜小説投稿サイト〜
同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
帝冠の共和国〜アルレスハイム王冠共和国にて〜(下)
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 とはいえそのまま現状復帰しようとすれば――「軍事費!即ち無制限の出費!」と叫ぶのが財務委員会の官僚団と政治家の役目である。

「敢えて先のスピーチでは触れませんでしたが首都圏と地方の対立は広がっています。
反戦市民連合は今度はいよいよ議席を伸ばして自由党と張り合うようになるかもしれません。
そうなれば【縦深】と明確に敵対することになる」

 都市政党の色が濃い自由党は与党の座を射止めた際に財務委員会の幹部の比率が伝統的に多い。それはその叫びがバーラトを中心とした都市市民達の少なからぬ割合がそれを支持しているからである。
 だが一方で彼らは彼らで第五次イゼルローン攻略戦など数多くの武勲で彩られた前線指揮官畑の実戦派、シドニー・シトレを最高評議会指名人事の重要ポスト、統合作戦本部長に推薦をするなど軍を軽視しているわけではない。これ以上の拡大ではなく効率化を主軸にしているのだ。
 だがそうなると地方駐留艦隊の削減など経済的な要衝ではない【交戦星域】に直接的な被害が及びかねない改革に手を出すことになる。

「自由党系とは利害が対立しますが調停を前提とした対立です。良くも悪くもサンフォード議長のような国民共和党の地方議会出身の者達がそれを調整するのが伝統でした。だが反戦市民連合は違う」
 彼らにとって軍事費の増大は無制限の収奪を受けて顔も知らぬ辺境の連中の手で浪費させられているのと同義である。そして従軍すれば――その地を護る為に親族や友人が殺されるのだ。
 負けが込んでくると【交戦地域】では国防委員長でも統合作戦本部長でもなく、財務委員長が公然と憎まれる不可思議な事象はこのような極めて民主的な事情によって発生するのである。
 
「――被害者意識が肥大化すれば代議を務めるものですら調停ができなくなる。防衛戦争が長引きすぎた、バーラトの一般市民がこちらに来る事も少ない。断絶されてるのだよ、我々は。経済への不安、社会の病根だな」
 リッツはため息をついた。であるからと疎外しろと言えないのが苦しいところである。
「あぁもちろん彼らも被害者だとも、だからとて我々が滅ぼされていいはずはない。だが彼らが我々を同じ同盟市民と認識できないのも責めきれぬ。全部あの忌々しいイゼルローン要塞のせいだ」

「和睦を示唆しているようだけどねぇ」
 王冠の守護者陛下は冷やかな物を滲ませた声で謳うように言った。
「現実的な見通しとしては不可能。追われた者は知っている。連中にそんな統一された意志など持ちようがない事を。そして奪われた者は感じるの、奴らは何かあれば殺され、犯され、攫われて奴隷とされるのは自分達だと。
だから――バーラトの市民と私達とエル・ファシルやアスターテやティアマトの人間がみる現実は違い過ぎるのよね。私がアルレスハイム王冠共和国民意の
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ