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同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
帝冠の共和国〜アルレスハイム王冠共和国にて〜(下)
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医療費を含めていろいろと問題がありそうですが」

 『人民の資本(ピープルズ・キャピタル)』とはセイムの最左翼であるリッカルド・ハンソンが首相の座を射止めた最大の武器にして彼の政治的キャリアにおける最大の博打である。
 社会インフラの再整備であり『国家とは人民が共有する社会資本に他ならない』とバーラトにおける自由主義の否定に近いものを掲げた政策綱領である。その意欲的な内容は貧困層に向けた社会保険補助の強化から労働組合を介した労災ホットラインの強化、更には地域中小企業を介した住宅開発支援制度への公的資金の投入など幅広いものだ。
 だが問題はその財源と受け皿となる医療機関の強化である。

「人的資源委員会や地方社会開発委員会との制度的な調整は済んだ――亡命者以外の者も受け入れて復興の拠点となるように、という目論みも無論もある、問題は同盟の財務委員会共だ、貴様も同盟弁務官として働いてもらわねばならぬ」

「はい、首相閣下。予算を奪ってくるのが弁務官の仕事ですので」
 リッツがニヤリと笑うとハンソンも唇を歪めてみせる。

「ふん、である限りは貴様は俺と違いまだ『黄金の自由』と殴り合うことはないわけだ」

「いじめちゃだめよー、リッツ先生は立派なインテリゲンチャなんだから、喧嘩して成り上がった爺様とは違うのよ」
 飛んできた野次を歴戦の議会政治家は一睨みで黙らせる。
 あら怖い怖い、と口を挟んだ王冠の守護者にして尊厳者はにやにや笑って引き下がった。

「‥‥努力はしますがこれから取り分を維持できるかは難しいですよ、階層対立を煽るのは得策ではありません」

「俺を誰だと思っている、その辺りはうまくやるさ」

「連帯の右派系を上手く使ってるのよこのお爺ちゃん、見かけより狷介よこの爺ちゃん」
 財源の少なからぬ部分が中央政府からの交付金を利用しているのであるが――だからこそ同盟弁務官のみならず王冠共和国の政治家たちは政敵である『黄金の自由』ですら同盟政府の動向を注視しているのである。彼らとて金が入ってくる方がありがたいのは変わらない。
 問題はその使い道を支持層の利益に誘導する事が仕事である。
 『連帯社会運動』の右派は中小企業や自営業者も多い『黄金の自由』との間で落としどころ探る時には彼らが裏で動くのが常だ。

「わかっておりますが、絶対量が少なくなってしまえばその手段も難しくなりますよ」
 だが同盟財政は火の車である。第三次ティアマト会戦による第十一艦隊の半壊に加え、アスターテ会戦の二個艦隊の喪失。
 同盟政府の財政的な危機を重視し、補充を最低限に抑えて再編を行うのであれば、少しずつ浸透する帝国政府の公然とした支援を受けた海賊(貴族たちが雇った私掠艦隊、事実上の傭兵である)をカバーする能力が著しく低下する
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