第三章
[8]前話
「だからね」
「そうですか」
「うん、これといってね」
まさにというのだ。
「気にすることでも感謝することでもないよ」
「私は感謝しています。あと今困った時はお互い様だと言われましたが」
「それがどうしたのかな」
「それは私達も同じでして」
「そうなんだ」
「今この辺りは日照りで困っていますね」
「だからおいら達も今のうちに魚を釣ってそれを干して食べものがない時に備えているんだ」
与平は小僧にこのことも話した。
「こうしてね」
「そうですか、ではです」
「では?」
「私の父にお願いします」
「お父にかい?」
「乳は雨乞いの名人でして」
それでというのだ。
「父にお願いすればです」
「雨が降るんだ」
「それもすぐに、そして」
小僧は与平にさらに話した。
「これから降る時は東の波を鳴らし」
「そうして教えてくれるんだ」
「そして止む時は西の波を鳴らします」
「止む時も教えてくれるんだ」
「そうしますので、ではこれを前の恩返しということで」
「だから困った時はお互い様だろ」
「そのお互い様ですよ」
今こそがというのだ、こう言ってだった。
小僧はにこりと笑って与平の前を退散して海に飛び込むとだった、すぐにだった。
東の波が鳴った、すると瞬く間にだった。
「雨だ」
「雨が降ったぞ」
「雨が降りだしたぞ」
「そうなったぞ」
「これは」
与平は雨を身体に浴びつつ言った。
「浪小僧が」
「浪小僧?」
「浪小僧って誰だ?」
「それは誰なんだ?」
「ああ、実は」
与平は周りの村人達に小僧のことを話した、すると皆目を丸くして言った。
「そんなことがあったんだな」
「それでか」
「今こうして雨が降っているんだな」
「そうなんだな」
「ああ、信じられないけれどな」
与平はその雨の中で言った、そしてだった。
この雨で与平の村もこの辺りの他の村も救われた、水は戻り田畑も元気を取り戻し皆餓えから救われた。そして。
この時からこの辺りでは東の波が鳴ると雨が降り西だと止む様になった、それでこの辺りの者達は波の音で天気がわかる様になった、全てはこの時からのことであった。遠江今の静岡県に伝わる古い話である。
浪小僧 完
2020・5・13
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