第三章
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「亡者火だな」
「そうだね」
「噂の」
「実際にいるとはね」
太宰はその火を見つつさらに言った。
「思わなかったが」
「それでもだね」
「この目で見たなら」
それならとだ、太宰は友人に話した。
「実際にいるということだ」
「間違いなくね」
「海の上の亡霊は碌なものがいない」
ここで太宰はこんなことを言った。
「船幽霊にしても」
「ああ、漁師の船を沈めるそうだな」
「柄杓を貸せと言ってきて」
「貸したらどうなるか」
「その柄杓に海の水を汲んでどんどん船に入れる」
「そうしたら船は沈むな」
「そう、船を沈めにかかるんだ」
実際にとだ、太宰は話した。
「船幽霊は」
「そうして漁師を殺すんだな」
「自分の仲間にするのだろう」
「本当に碌なものじゃないな」
「だから見るだけにして」
その海の上で燃える赤い火を見つつ話す、その燃える様は鬼火を思わせる。
「近寄らない方がいい」
「これ以上は近寄らない」
「その方がいい、ただ」
「ただ?」
「近寄ってきても」
その亡者火がというのだ。
「相手にしないことだ」
「それがいいか」
「そうだ、だからもう帰ろうか」
「寒いしな」
「姿を見たのなら」
その亡者火のというのだ。
「もう目的は達した」
「それならだね」
「帰ろう」
「そうしようか」
友人も太宰の言葉に頷いてそうしてだった。
二人は帰路、太宰の家へのそれに着いた、すると。
亡者火は二人の後をついてきた、友人はそれを見て太宰に囁いた。
「ついてくるな」
「無視することだ」
「それでいいのかい?」
「あれは言うなら人魂だな」
「亡者の火というからな」
「人魂の火が点いたなんて話はないよ」
それはとだ、太宰は友人に話した。
「僕も聞いたことがない」
「そういえばそうだな」
「人魂とか鬼火とかの話は多いがね」
「狐火にしても」
「蓑に点く蓑火なんてのもあるけれど」
それでもというのだ。
「どれも点いたなんてないからね」
「その心配はいらないか」
「そう、だから無視して戻ろう」
家にというのだ。
「そうしよう」
「それでいけるか」
「いけるさ、じゃあ帰ろう」
引き続いてと言ってだ、そしてだった。
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