第二章
[8]前話
「ならばな」
「はい、岸に上がれるなら」
「それならばですな」
「この度は」
「是非そうしよう」
帝の言葉に皆従い岸に向かってそのうえで休んだ、そしてだった。
帝は無事に親征を終えられた、遥かな昔のことである。
時は流れある一家が親戚の法事に九州の有明の方に来てそこの旅館で宴会をした、幾つもの家が集まったのでその数はかなりのものになり。
子供達の数も多かった、大人は大人で子供は子供で飲んで食べていると。
その一家の長男がふと宴会場の窓から外を見た、そこは海だったが。
その海に火が連なって灯っているのを見てだ。
首を傾げさせて母のところに来て尋ねた。
「お母さんあれ何?」
「あれって?」
「海の方に火が出てるけれど」
その連なっている火達を指差して言う。
「あれ何?」
「あれね、不知火よ」
母は息子にこう答えた。
「ここには夜には出るのよ」
「不知火?」
「この季節ここには出るの」
母は息子に何でもないといった顔で話した。
「夜に海の上にね」
「あれ人魂なの?」
長男は首を傾げさせてこうも言った。
「そうなの?」
「違うわ、遠くの漁船の火がね」
それがというのだ。
「暖かさとここの場所の関係でね」
「あそこに出るんだ」
「そう、言うなら蜃気楼よ」
息子に前これのことを話したのでわかりやすく話した。
「言うなら」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
「人魂じゃないんだ」
「怖いものでもないわ」
息子に微笑んで話した、話しつつビールを飲んでいる。
「気にしなくていいから」
「そうなんだ、何かと思ったよ」
長男は子供の、十歳にもいっていないその声で言った。
「何で海の上に火があるのかって」
「不思議でしょ、けれどね」
「けれど?」
「昔はどうしてああしたものが出るのかわからなかったから」
その不知火がというのだ。
「不思議に思われていたのよ」
「そうだったんだね」
「けれどあの火で大昔の天皇陛下が助かったこともあるのよ」
「日本で一番偉い人が?」
「そうなったこともあるの」
景行帝の話もした。
「実はね」
「そうだったんだね」
「だから有り難い火でもあるの」
「そうなんだ」
「そうよ、そのことを覚えておいてね」
母は息子にこのことも話した、そしてだった。
長男は自分の席に戻りながら不知火を見続けつつお子様ランチやジュースを楽しんだ。祖父も母も不知火を少し見ただけで終わっていた。それは彼等にとっては見慣れたものであったからだ。だが彼はそれをずっと見ていた。はじめて見るそれを。
不知火の火 完
2020・4・12
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