偽・新約篇
第1章
アイツのいない世界《前篇》
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その様子が変わったのは半月ほど前のことだ。
美琴は一日だけ雰囲気が最高に暗く、いまにも泣きだしそうに見える日があった。
その日、美琴は白井に体調が悪いといって部屋に閉じこもり一度も部屋の外に出てこなかった。
が、次の日にはほとんど元通りの“常磐台のエース”で“黒子のお姉さま”の御坂美琴に戻っていた。
(それはいいことなのかもしれませんわ、ですが…いまのお姉さまはなんだか危ういんですの)
いまの美琴は時折ふとした拍子にいまにも崩れ落ちそうな雰囲気を纏うことがある。少なくともほとんど誰も気がついてはいない、気付いている人間の数は両手の指ほどもいないだろう。
少なくとも白井の見立てで気付いているであろう人間は『白井、初春、佐天、寮監、黄泉川』だけだ。
白井は美琴が自分を頼ってくれないことをさびしく思うと同時に自分にもっと力があれば違ったのだろうか?とも思う。
そして白井の脳裏に腹立たしくも浮かんでくるのは、ツンツン髪の高校生の少年の姿だった。
(…あの類人猿…上条さんならお姉さまの力になれたのでしょうか)
白井は知らない。その人物と美琴はもう会えないことを。
白井は知らない。美琴にとっての最高の陽だまりは失われてしまっていることを。
白井は知らない。美琴にとって白井や佐天、初春――大切な友人――の存在がどれだけ救いになっているのかを。
いや…3つ目に関しては本当はわかっているのだろう。だけど美琴は白井にとって『命をかけてでも護る価値』それを見出せた本当に大切な人だから、だからもっと美琴に自分を自分たちを頼って欲しかった。
白井がこんなことを考えていると知ったら、きっと美琴は烈火のごとく怒る。迷惑だ、とかではない、きっとそう思ってもらうのは美琴としても(ちょっと重すぎるが)嬉しい。
だから怒るのは白井のことを心配して、だ。
自分だってきっと白井や佐天、初春が危険な目に会ったら『命を賭けてでも』助けに行くだろうに、白井がそうすることを容認しようとはしない美琴の優しさを嬉しく思うと同時に歯がゆくもある。
だって白井はこんなにも美琴の力になりたいのに、強くて、優しくて、かっこよくて、かわいくて、まっすぐ芯が通っている。それでいて本当は弱い美琴の支えになりたいのに。
それでも優しいあの人は、まず自分の心配よりきっと『誰か』の心配をするのだ、誰も頼ろうとはせず自分は一人でも大丈夫だというように。
自分が超能力者だからでも、力があるからでもない…ただ『自分』の正しいと思ったことを貫き通しているだけ。
(だから、私はお姉さまをお護りしますの。…力なんて関係ないですわ。私はお姉さまの支え
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