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俺の四畳半が最近安らげない件
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―――俺の下宿の、裏庭に来てくれ。


工学部の井沢から、そんな連絡が入ったのは今日の午前中だった。
昨日、午後の授業が終わって構内でウロウロしていると、切羽詰まった表情の井沢につかまった。
「頼む、暫くお前のところに泊めてくれ」
俺は首を傾げた。家族とのトラブルか?と思ったが井沢は下宿住まいだ。…ならば考えられるのは、家賃の滞納などの金銭トラブル、若しくは女関連…いやいや、あいつにそんな甲斐性はなかろう。家賃の滞納と考えてほぼ間違いない。それなら答えは一つだ。
「断る」
「何故」
「お前はいい奴だ。だが貧困という毒の前には一個人の人格なんて脆く儚く些末なものでな…」
「誰が貧困だ失礼な」
「ん?家賃の滞納じゃないのか?」
「家賃払ってんのは親だよ」
「けっ、ボンボンが。死ね」
「云われ方の酷さがハンパねぇな」
「家賃滞納ではないのなら、一体何故自分の部屋で寝起きが出来ないんだ」
「………テレビが入らないんだ」
話はそこで終わった。
馬鹿馬鹿しいと思ったのも勿論あるのだが、とりあえず予鈴が鳴ったからだ。それでそのまま泊まる泊まらないの話はうやむやになり、家に帰る頃にはすっかり忘れていた。
そして俺の携帯に入った、裏庭に来いという連絡。
奴の狭くて汚い四畳半ではなく、その裏の庭に来いという。…奴め、とうとう散らかし過ぎて部屋のキャパシティを越えてしまったのか。部屋に入れないというのなら、手土産の必要もないだろう。俺はポテチもコーラも買わずに手ぶらで井沢の下宿に向かった。




「おい、こっちだ、こっち」
排気ガスで薄汚れた花ブロックの塀に挟まれた門をくぐると、横から囁くような声が聞こえた。…井沢だ。俺が来るまで、アパートの沈丁花の植え込みの陰でじっとしていたらしい。大の男がなにやってんだそんなところで。妖怪かよ。
「井沢…なんちゅうスタンバイだ。さぞかしむせかえる匂いだったことだろう」
「いいから来い」
井沢は不愛想に俺の言葉をぶった切ると、ふいと踵を返した。
「大家に見つかるとやばいんだわ、それなりに」
「それなりに!?」
「まぁ…今のところ、『はみ出してない』からなぁ…ギリセーフかな」
はみ出す!?何だ一体!?
「今日は掃き出しのカーテンをあけておいた。大家は買い物中だから、それまでに済まそう」
「何云ってんださっきから」
アパートと塀の間の狭い、じめついた通路をそろそろと通り抜ける。踏みつぶしたドクダミの匂いがむっと鼻をついた。
「…もう茂ってんな、まだ春先だというのに」
「………ああ。それきっと、俺のせい」
「………お前なにやったんだ?」
やがて視界がひらけ、花ブロックの塀に囲まれた横に長細い裏庭が現れた。まだ春先だというのに、もう草がぼうぼうに茂っている。膝まである雑草
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