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俺の四畳半が最近安らげない件
スチームパンクTV
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ゃねぇか、自殺かよ!!」
金づちを引き抜くと、カンッカンに焚かれた蒸気がブッシュゥーとか凄い音をたて、狭い中庭を二分する勢いで噴き出した。
「あっちぃ!!」
咄嗟にバックステップで直撃をよけたが、猛烈な水蒸気は俺の肘あたりを掠めた。じりり、と火傷特有の痛みが肘から広がった。
「そ、そうか…」
井沢が噴き出す水蒸気をぼんやり眺めながら呟いた。
「蒸気を抜いて爆発のリスクだけでもなくすのか…」
抜いた金づちをまた別のパイプに叩き込み、また引き抜く。さっきよりも勢いよく水蒸気が抜けていく。それらをギリギリで交わしながら、俺は何度もパイプに金づちを叩きつけた。穴が増えれば増える程、水蒸気の勢いが弱まっていく。やがて、圧力なべの如く煙を吐いていたパイプの穴からは、細い煙が僅かに立ち昇るほどになった。
「た、助かったのか…?」
「とりあえず大爆発は免れたな…お前ほんと二度と蒸気機関とか作るなよ。もう二度と」
「火、止めてくる」
あのクソ野郎は蒸気機関禁止については明言せず、熱いパイプの中をかいくぐるようにして四畳半の奥へ、奥へ…。


ちょっと待て、熱いパイプの中に…?


「…井沢、水を熱しているのは台所のコンロだよな」
「台所のコンロも使ってるけど…カセットコンロも使ってるよ。台所」
「馬鹿野郎引き返せ今すぐ!!」
井沢がめんどくさそうに振り向いたその瞬間、ポップコーンが鍋を弾くあの音…あれを50倍くらいにしたような爆音が部屋の奥から轟きわたり、部屋を這い回る全てのパイプが崩落を始めた。もがきながらパイプを掻き分けて逃げ込んで来た井沢を半身だけ突っ込んで外に引っ張り出し、俺と井沢は死に物狂いで走った。


結局井沢は今、俺の部屋で小さくなっている。


あの後、絶対火事になると踏んだ俺は消防に電話した。だが結局、火事には至らず無駄足を踏まされた消防士に叱られる程度で済んだのだ。
パイプはあちこち隙間だらけで水漏れが酷く、おまけにコンロの傍で破裂したパイプから水蒸気が噴き出し、湿気のあまり、引火する隙すらなかったからである。…どちらにしろ井沢の蒸気機関はダメダメだったのだ。稼働から僅か数秒で巨大なガラクタと化した蒸気機関テレビの前で、井沢は崩れ落ちた。…そんな失意の井沢に、世間は更なる追い討ちをかける。
下宿、退去命令である。
失意だの追い討ちだのと云ったが、考えてみれば至極当然なことだ。貸した部屋の中に怪しい機械を詰め込まれ、それが発火して火事を起こされるところだったのだ。突然出ていけといわれても、返す言葉もあるまい。
「……ちっくしょう、あのクソ大家め」
返す言葉あんのかよ、最悪だなお前。
「お前な…敷金没収くらいで済ませてくれた大家さんに感謝こそすれ、よくそんな…」
「俺が大科学者になったあかつき
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